大谷活躍、阪神優勝でも「野球離れ」止まらぬ現実 日本野球がこれだけ盛り上がっているのになぜ

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サッカーやバスケットボールなどは、JFA、JBAなどの統括団体が、子ども世代の競技普及活動のために予算を割き、長期的な展望のある活動計画を立てている。サッカーは「キッズリーダー」、バスケットボールは「キッズサポーター」などのライセンス制度を敷いて、子どもの指導に一定の方針を立てて、指導をしている。指導方針の基本は「スキルの習得」以前に「サッカー、バスケットボールを好きになってくれること」になっている。

しかし野球ではそもそも「統括組織」がない。小学校、中学、高校、大学、社会人から独立リーグ、プロ野球まで、すべて別組織だ。「日本野球協議会」というプロアマが話し合う組織はあるが、日本野球界全体のことを主体的に考える団体はない。

各団体ともに危機感を抱いて、普及活動をしている。日本高野連は2018年に発表した「高校野球200年構想」の中で小学生への普及活動を奨励している。プロ野球も各球団が自身のフランチャイズで幼児向けの野球教室を行っている。東京六大学は今年から「グラウンド開放」で、子どもたちに遊び場を提供している。

それぞれの取り組みは確かに有意義で、日々進化しているとは感じるが、サッカーやバスケットボールでは、その競技が好きになった子どもたちに「次のステップ」が用意されるのに対して、野球はそれがない。

子どもの野球教室で野球好きになった子どもが、小学校の野球チームに入ろうと思っても、その学校にはもはや野球部がないことが多い。小学生が中学で野球をしようと思っても同様だ。また、チームがあってもその指導法が旧弊だったり、勝利至上主義的だったりすることもある。

「野球が好きでたまらない子どもを作る」という共通のプロジェクトを組んで、野球界が大同団結しない限り、ここまで盛り上がりを見せている「野球のエネルギー」を、有効活用する手段が全くないことに、筆者は隔靴掻痒の思いを隠せない。

大谷翔平のグローブ寄贈先が象徴すること

先日、大谷翔平が自身が契約する「New Balance」ブランドの軟式用グローブを全国2万校の小学校に右用2個、左用1個の3個、計約6万個を寄贈すると発表した。クリスマスのタイミングで、一部の地方には届いたようだ。筆者の住む市にも大谷のプレゼントが届いた。市は市役所でグローブを公開した。

大谷翔平が寄贈したグローブ(写真:筆者撮影)

そのグローブには「私はこのグローブが、私たちの次の世代に夢を与え、勇気づけるためのシンボルとなることを望んでいます。それは、野球こそが、私が充実した人生を送る機会を与えてくれたスポーツだからです。」というメッセージが添えられていた。

小学生の野球人口が10万人余であることを考えると、このプレゼントの巨大さがわかるが、プレゼントの送り先は各学校であって、野球団体ではない。野球の専門家でもない小学校側に活用法をゆだねることになるのだ。

大谷翔平という空前のスーパースターのプレゼントを受け取って有効活用できるような野球団体がない、という現実こそが、今の日本野球を象徴しているように思う。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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