無形経済がしばしば「知識経済」として描かれる理由は、経済学者が頭でっかちなので、無形資産の知識面を最も重要だと思ってしまうからかもしれない。だが無形資産を知識経済と同一視するのは誤解を招く簡略化であり、現代経済における関係資本と表出資本の重要性を隠してしまいかねない。
ポスト工業社会と無形資産
ときに無形経済はポスト工業と表現されることもある。これはフランスの社会学者アラン・トゥレーヌが提唱した用語で、1970年代にダニエル・ベルが普及させた。人々はときにこの表現から、無形資産は主にサービス産業にとって重要なのであり、無形リッチ経済は多くのサービスで構成され、製造業はほとんどないのだと思い込む。
だが、これまた無形資本について考えるうえで誤解を招きやすい。富裕国の製造業を見ると、ほとんどの場合は有形資産だけでなく無形資産にも大量の投資をしている。最先端の製品を生産するため研究開発やデザインに投資し、工場の生産性を高めるために組織開発と研修に投資し、自分の生産に関連するものだけでなく、自分の販売する物理財に付属するソフトウェアやデータにも投資するのだ。
きわめて健全な製造業部門を持つ富裕国を見ると、通常は持続的で突出した無形資産への投資物語が見つかる。コンサルタントのハーマン・サイモンがドイツのミッテルシュタント──ドイツの高収益で競争力の高い中規模製造業企業群──を検討したところ、彼らの収益性の源は、研究開発とイノベーションへの献身、持続的で情報リッチなサプライヤや顧客との関係、優れた労働力の技能と組織を含むことがわかった。これらはすべて無形資産だ。
日本、台湾、韓国などのいわゆる発展指向型国家の成功は、研究開発、プロセスデザイン、研修などへの大きな投資が、造船から半導体まで世界的に競争力のある製造業企業の台頭をもたらしたことで初めて可能になった。現代経済を、無形リッチで、ある程度までポスト工業経済と呼ぶのは正しいが、無形投資と栄える産業──工業部門という意味の産業──は代替物ではなく補完物なのだ。