みんな誤解しがちな「無形経済」の本当の意味 「知識経済」「ポスト工業社会」と何が違うのか

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近代批判者の著作、例えばジェームズ・C・スコットとエルンスト・シューマッハーの著作を見よう。スコットは、アナキスト古典『国家のように見る』〔未邦訳〕で、善意ながら自信過剰の支配者や経営者たちが、伝統的なやり方を引き裂いた事例を示す──プロイセンの伝統的な森林管理、ジャワやタンザニアの伝統的な耕作方法などだ。彼らはそれを、新しい非人間的で「科学的」な仕組みで置き換えたが、それは従来の方法よりはるかに効率性が低くなってしまった。

同様にシューマッハー『スモール イズ ビューティフル』〔邦訳・講談社学術文庫、1986年〕は局所性に敏感な「中間的」「適正」な技術のほうが一般に、均質化されたグローバル化製品よりも価値が高いことが多いと述べる。これはそうした製品が見た目ではもっと先進的な場合にすらあてはまる。

間違った解釈

こうした説明を見ると、無形資産は高等近代主義の道具であり、スコットとシューマッハーが見ているものは何か別のものだと思いたくもなる。だがこの解釈はまちがっている。スコットの事例が示しているものこそ無形リッチな生産手法なのだ。それは詳細で歴史の試練を経たノウハウと関係に根差している──つまり無形に根差しているのだ──だがそれが、権力ある地位の高い人には魅力的だが、意図せずして低質なアイデアや手法(これも無形だ)で置き換えられてしまったという話だ。

(翻訳:山形浩生)

ジョナサン・ハスケル インペリアル・カレッジ・ビジネススクール経済学教授

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Jonathan Haskel

スティアン・ウェストレイクと2017年インディゴ賞を共同受賞した。

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スティアン・ウェストレイク イギリス全国イノベーション財団ネスタ・シニアフェロー

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Stian Westlake

ジョナサン・ハスケルと2017年インディゴ賞を共同受賞した。

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