確かに一部の無形資産は十分に知識と言えるものだ──例えば創薬の研究開発の成果、新しい生産技術、労働者に新規技能を与える研修などだ。そして一部の無形資産は、ソフトウェアやデータベースのように、情報でできていて、知識と完全に同じではなくともかなり似たものだ。
だが他の無形資産は、知識や情報以上のものに関係している。例えばブランドの価値は、その名前の情報内容やロゴだけにあるのではない。それはある種の約束と過去の記憶を連想させるものだという意味で、関係性によるものだ。
それは暗黙のうちに、そのブランドの評判を構築した無数の過去の取引を参照し、顧客にある特定の体験や品質を提供すると提示するのだ。アップルブランドの製品が持つ2つの側面は、その精悍なデザインと使いやすさだ。
このブランドアイデンティティは、ただの情報ではない。むしろその価値は何百人もの顧客体験と、新製品設計においてアップルが暗黙に示すインセンティブから生じている。ブランドの価値は、それが製品について情緒的なメッセージを伝えるという意味で表現的であり、そのメッセージを顧客はしばしば評価する。
「Just do It」〔ナイキ〕、「Coke Is It」〔コカ・コーラ〕、「Because You’re worth it」〔ロレアル〕を耳にするとき、聞こえてくるのは通常の意味での知識などではまったくない。それはずっと主観的なものだ。
価値は知識ではなく関係性にある
また、企業内部やサプライチェーンに蓄積された組織資本の価値も主観的だ。マークス&スペンサー(M&S)を考えよう。有名なイギリスの小売り業者だが、その多様なサプライチェーンとの優れた関係について昔から評価が高い。
こうした関係は、同社の収益性の重要な理由として広く認知されている。サプライチェーンの各種側面は確かに知識と呼べる──例えばM&Sがある農家群からある数のイチゴをある価格と品質で、ある予定に基づいて買う、といったものだ。だがこの無形資産の価値は、その知識ではなく関係性にある──各参加者がお互いについて抱く期待と、そうした期待が彼らの行動に系統的に与える影響だ。
同じことが社内についても言える。ある事業のオペレーションを書き出したり、その経営方法をコード化してスクラム(Scrum)とかシックスシグマ(Six Sigma)などとしてまとめたりはできる。だがその実装は、ただの知識以上のものだ。それはある関係の集合の中でそれが具体化される方法についてなのだ。