三菱UFJモルガン「70億円訴訟」、投資家たちの憤り 紙くずとなった「AT1債」に納得できない理由

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「このような規定はイギリスやアメリカなどのAT1債にはなく世界的に特殊。しかも公的支援の実施はスイス当局の主観的・裁量的な考慮にかかる。そこで考慮される要素を一般投資家が理解して評価するのは無理なことだ」

投資家たちの代理人を務める山崎大樹弁護士(山崎・丸の内法律事務所)はそう指摘する。「知見のある機関投資家が有する技術と資源がそろった場合にのみ分析は可能になると考える」という欧州の規制当局の見解などを基に、一般投資家に販売していい商品ではなかったと主張する。

対する三菱UFJモルガンは、訴訟中であることから取材にはコメントを控えているが、投資家個々の状況をみて判断すべきとのスタンスを法廷で取る。では、投資家はどのような状況で購入していたのか。当事者の声を聞いた。

「またお前らかよ」という怒り

「無価値になりました。申し訳ございません」

3月20日の朝。AT1債を購入していた男性は、9時前から会社内のトイレを掃除していた。男性が取締役を務める会社は毎週月曜日に社員総出で社内清掃をする習慣がある。

そこに突然かかってきたのが三菱UFJモルガンの営業担当者からの電話だった。「無価値」と告げられ、男性は唖然とするしかなかった。数日後、担当者が「説明」に来た。抱いたのは「またお前らかよ」という怒りだった。

三菱UFJモルガン証券が投資家に示したクレディ・スイスのAT1債に関する「外国証券情報」。集団訴訟の原告の投資家たちは、情報がきちんと提供されていなかったと主張している(記者撮影)

理由はあった。男性の会社を経営する父親が、三菱UFJモルガンから勧められた仕組み債で2億円の損を出していたからだ。仕組み債の購入当時、70歳間際だった父には、複数の金融機関がさまざまな商品を売りつけてきたと語る。

仕組み債での損を「リカバリーします」と、勧められた商品の中にクレディ・スイス発行のAT1債があった。父と男性、一家の資産管理会社で購入した額は総額250万ドルと日本円で3億円を超えた。10%前後の年利で損失を10年で回復する算段だった。

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