三菱UFJモルガン「70億円訴訟」、投資家たちの憤り 紙くずとなった「AT1債」に納得できない理由

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そして今年3月。クレディ・スイスの信用不安が高まる中で担当者に問い合わせると、「自己資本比率が14%もあるので大丈夫」「スイス金融当局から資金注入の発表もあり、むしろ経営は安定する可能性が高い」と言われたという。

AT1債が無価値となった後、担当者が訪れてきた。自分の顧客で20人以上、会社全体でも200ほどの顧客が損失を出したという。また、「公的支援決定の際にはクレディ・スイスの株価が上がり、喜んでいた社員がいた」ことを聞いた。

AT1債が無価値となったことを顧客に伝える三菱UFJモルガン証券の書面の一部。「お客さまにご心配をお掛けしておりますこと、大変心苦しく存じます」という言葉とともに、無価値となったAT1債4銘柄が掲載されている(記者撮影)

お金を失ったこと以上に許せないこと

男性は「2000万円を失ったこと以上に許せないことがある」と話す。それは三菱UFJモルガンから、「危ないとか、そろそろ売ったほうがいい」といったアドバイスが一言もなかったことだ。

「こちらが何度もウォーニング(警報)を出したのに受け止めてもらえなかった」。商品への深い知識、さらには顧客の資産を守るとの理念がなかったのではないか。男性はそのような疑問を拭えない。

クレディ・スイスのように、破綻すると世界の金融システムに与える影響が大きい金融機関の危機を、政府が放置することはあまり考えられない。そういう意味では担当者が投資家たちに「大丈夫」とのメッセージを発したのも理解できる。

しかしクレディ・スイスのAT1債に限っては、公的支援の可能性こそが無価値化につながるリスクだった。そのことを三菱UFJモルガンの営業現場がどこまで認識していたのか、という投資家たちの問いは的を射ているように思える。

AT1債の最低購入価格は20万ドルであり、保有資産3億円を超える富裕層が購入者の中心だったとされる。だが当事者の話を聞くと、富裕層と一くくりにできないのではないか。訴訟は長丁場になることが予想される。その分、詳細な実態が見えてくるはずだ。

緒方 欽一 東洋経済 記者

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おがた きんいち / Kinichi Ogata

「東洋経済ニュース編集部」の編集者兼記者。消費者金融業界の業界紙、『週刊エコノミスト』編集部を経て現職。「危ない金融商品」や「危うい投資」といったテーマを継続的に取材。好物はお好み焼きと丸ぼうろとなし。

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