日本製鉄、「USスチール2兆円買収」に動いた必然 経営リスクは覚悟で「脱ドメスティック」に進む
日本製鉄の株価は前日比4.3%の下落で始まり、終値も同2.8%下げた。これにはいくつかの懸念があるからだ。
第1に高値づかみの懸念。
日本製鉄の買収案はUSスチール1株当たり55ドル。発表前の株価39.33ドルに40%のプレミアムを付けた。アメリカ企業の買収で40%のプレミアムはさほど高くはない。
だがUSスチールは、今年8月に身売りを含めた「戦略的選択肢」を検討していると公表。直後、クリフスによる買収提案が公開されたことで株価は上昇した。8月以前の株価は20~30ドルだったこと、クリフスの提案は1兆円前後だったとされることを考えると、プレミアムはかなりのものだ。
第2が買収に伴う財務への影響。
2兆円の買収資金は、国内の主要取引銀行から融資の確約を受けており、いったんは借入金で対応する。このことでDEレシオ(負債資本倍率)は0.5から0.9まで上昇する。
0.9という水準は一般に安全圏とされるが、今後、「経営・財務状況、市場動向などを勘案しながら、必要に応じて、資本構成を評価し最適な資金調達手段を検討する」としており、株式市場が嫌う増資の可能性が残る。
労働組合が非難の声明
第3がUSスチールが抱える問題。
USスチールは名門ながら業績は長く低迷していた。2021年以降は黒字を保つが、その前の10年のうち7年は最終赤字だ。名門ゆえに高コスト体質で労働組合の経営への関与も強い。
実際、全米鉄鋼労働組合(USW)は労働協約を盾にクリフスによるUSスチール買収を後押ししていた。クリフスの買収提案を拒否したのはUSスチール側だったが、USWは日本製鉄による買収を非難する声明を即座に出した。
記者は8月下旬、日本製鉄の森高弘副社長に、USスチールが売りに出ていることについて見解を尋ねている。森副社長は「買わない」と答えた。水面下で進む買収案件についてメディアに正直に語るはずもないだろう。とはいえ、このときに挙げた買わない理由の中には「組合」もあった。
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