「退陣表明」後の延命に挑戦する史上初の美学なき首相

「退陣表明」後の延命に挑戦する史上初の美学なき首相

塩田潮

 「退陣表明」から3週間が過ぎたが、菅首相が居座りを続けている。

 22日の国会会期末を控え、長期国会延長だけでなく、内閣改造までちらつかせる。野党側の対抗措置は予算関連法案の成立阻止を武器とした「予算人質論」だけだ。

 4日前に取材で会った自民党の石破政調会長も「首相の権限と地位は非常に大きい」と語っていたが、制度的には、日本の首相は国会議員である限り、その気になればぎりぎりまで居座れる。退陣は最終的に首相の自己判断が必要だが、決め手はこれ以上の政権維持が不可能かどうかという見極めである。

 首相の進退判断には3つのレベルがある。

 第1は辞めざるを得ないと本人が辞意を固めること、第2はそれをいつどういう形で明らかにするかという退陣表明、第3は実際の辞任の行動という最終場面だ。菅首相は「退陣表明」の6月2日には、第1と第2のレベルに達していたに違いない。だが、第3のレベルはその後の展開次第という考えで、それはいまも変わっていないと見る。

 とはいえ、首相の進退に関する意思表明は重い決断である。本人の意図はどうあれ、形は騙し討ちで、「退陣表明」後、政権の命脈は尽きている。

 その後の菅首相の突っ張りは、実際の辞任までの求心力確保が狙いと見られるが、一方で、辞意と退陣表明と実際の退陣を使い分けるというやり方が可能と判断し、走れるところまで走ろうと考えているではないか。最後まで粘り腰を見せた「辞めない首相」は過去に何人もいたが、「退陣表明」後の延命という実験に挑戦する首相は史上初だろう。

 だが、与野党とも早期退陣を前提に、「菅以後」の政権と体制を模索し始めた。政治の空転と空白は居座り首相が元凶という展開となっている。

 ところが、退き際や出処進退の美学など念頭にない菅首相は、政治、経済、国民生活、あるいは民主党政権の将来などよりも、延命実験への挑戦を優先させる気だ。原発事故と同じように「収束のめど」が立たない不毛政争を終わらせるため、そろそろ党派を超えて英知を結集すべきときである。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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