いときなきはつもとゆひに長き世を契(ちぎ)る心は結びこめつや
(幼い君がはじめて結んだ元結(もとゆい)に、あなたの娘との末永い縁を約束する気持ちを結びこめたか)
結びつる心も深きもとゆひに濃(こ)きむらさきの色しあせずは
(深い心をこめて結んだ元結ですから、その濃い紫の色があせないように、光君の御心も変わることがもしなければ、どんなにかうれしいでしょう)
左大臣はそう応え、長橋(ながはし)から東庭に降りて拝舞をする。帝は馬寮(めりょう)の馬、蔵人所(くろうどどころ)の鷹(たか)を、さらなる褒美として与える。清涼殿正面の階段の下に親王や上達部(かんだちめ)が立ち並び、彼らもまた、それぞれの位に応じて褒美を受け取る。その日の、光君から帝に献上する品々、肴(さかな)の入った折櫃物(おりびつもの)、果物を詰めた籠物(こもの)などは、右大弁(うだいべん)が調えた。下々の役人用に弁当、反物の入った唐櫃(からびつ)など、置ききれないほどの品々が東庭に並び、東宮の元服の時よりもかえってはなやかで盛大な儀式となった。
左大臣と右大臣
その夜、光君は宮中から左大臣の邸(やしき)へと退出した。左大臣は婿入りの儀式を、前例もないほど立派に調えて丁重に光君をもてなす。光君はまだあどけなく、子どもっぽさが残っているが、左大臣たちはその様子を、畏れ多いほどうつくしい方だと思うのだった。光君より少し年上の姫君は、夫となる光君が自分より若いことに引け目を感じ、不釣り合いなのではないかと恥ずかしく思っている。
この左大臣は、帝(みかど)からの信用も篤(あつ)く、その妻は、帝と同じ母親から生まれた妹君である。どこから見ても申し分のない家柄であるが、さらにこの光君までもが婿として加わったものだから、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)の父、東宮の祖父であり、東宮即位の暁には天下の政治を支配するはずの右大臣の勢力は、ものの数にも入らないほど圧倒されてしまった。
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