加冠(こうぶり)の儀(ぎ)が終わり、源氏の君は休息所に退出し、装束を成人のものに着替える。その後東庭に降りて拝礼の舞を舞うその姿を見て、人々はみな涙を落とす。まして帝はもうこらえきれず、このところは紛れることもあった桐壺への思いがよみがえり、悲しく思う。こんなに幼いのに髪上(くしあ)げをしたら見劣りがするのではないかと帝は心配していたが、光君のうつくしさは驚くほど増したようである。
加冠の儀を行った左大臣には、皇女である妻とのあいだにひとり娘がおり、たいせつに育てている。この姫君を東宮の后(きさき)として迎えたいと所望されてもいるが、左大臣は決心できかねている。というのもこの光君にこそ嫁がせたいと思っているからである。そこで、元服のこの時とばかり帝に意向を訊いてみると、
「元服して一人前となったのに、世話をする人もいないようだから、妻としたらいいのではないか」
との答えなので、左大臣もすっかり心を決めた。
夫となる光君
光君は休息所に退出し、人々が祝いの宴で酒を飲んでいる中、親王たちの末席に座った。隣に座った左大臣が、姫君のことをそれとなくほのめかすのだが、そういうことの恥ずかしい年頃である光君は、これといった返事もせずにいる。
御前に来るようにとの帝の言葉を内侍(ないし)が左大臣に伝えにくる。参上すると、帝付きの命婦(みょうぶ)を取り次ぎとして、褒美の品々が渡される。慣例の通り、白い大袿(おおうちき)に御衣(おんぞ)一揃いである。盃(さかずき)を受ける折に、あらためて帝から結婚の念を押される。
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