「最先端のAI半導体の分野で半年や1年の調達遅れは致命的。2ナノの開発では台湾のTSMCが先行しているが、仮に調達できなくなった際に日本という選択肢もあると安心できる」(中野氏)。加えて価格面からも、調達先の分散を進めておきたいという意図があったようだ。
テンストレントとしても開発体制には限りがあるため、ラピダスに委託するプロジェクトはラピダスの製造ラインに特化させる。「ほかのファウンドリーに委託しているプロジェクトのリスクヘッジ」というのではなく、ラピダスと一蓮托生で次世代の半導体開発を行っていくわけだ。
単なる顧客を超えた存在
一方のラピダス。ほかの日本企業のように「検討します」と言っている余裕すらなかっただろう。立ち上げ間もない同社にとって、テンストレントは喉から手が出るほど求めていた潜在顧客の第一号となるからだ。
テンストレントは単なる顧客を超えた心強い存在にもなりうる。というのもテンストレントは、ほかの顧客がラピダスへ製造委託する際に活用できる「IP」の提供もビジネスモデルに取り入れているからだ。
IPとは、半導体メーカーが回路を設計する際に使える共有部品のようなもの。半導体の微細化・高性能化が進むにつれ設計する部分は増えるが、顧客メーカーがすべてをイチから設計するのは負担が重すぎる。そこで肝となる部分は自社で設計して差別化を図り、残りは「IPベンダー」が販売する共通部品をパーツとして組み込む、というのが半導体設計の常道だ。
TSMCなど大手ファウンドリーには、その製造ラインに特化したIPを半導体メーカーへ販売する多くのIPベンダーが存在する。ラピダスにはそうした企業群がまだなく、それが課題の一つでもあった。
中野氏は「テンストレントが開発した半導体を顧客がそのまま使うのではなく、『その一部をIPとして購入し内部で最適化したい』などの要望に応えるためにIPの販売も行っていく」と話す。テンストレントの存在は、ラピダスにとって多くの顧客を呼び込む吸引力になる可能性がある。
水面下では複数の具体的な開発案件が進んでいるという。「伝説の半導体エンジニア」との二人三脚は、ラピダスの歩を進める重要な一手になるはずだ。
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