たとえば、各サウナ室から望める森の景観は、一見どこも同じに見えて、実は見える木々との距離感や視線の高さを巧妙にずらしてある。
まるでツリーハウスのような外観で絶壁にそびえ立つラトヴァ・サウナは、ベンチから、鳥の目線で木々の頭頂とその先の地平線を見渡せるのがこだわりだ。
また、サウナや浴場間の移動には必ず一度屋外を歩く動線となっていて、その都度自然の息吹や空気の寒暖、風の心地を素肌で感じられる。
西洋と日本では、温泉文化も随分違う
いっぽう、「ラハデ(泉)」という語には「温泉」への憧れがうかがえる。
憧れというのは、火山のまったくないフィンランドでは、天然温泉がまったく湧かないからだ。
ホルステインは、「このスパでは、温泉の物理的・成分的な本物志向を追求するのではなく、フィンランドの精神文化との親和性も感じられる、日本人の入浴文化への情緒的なイメージを独自に解釈して形にした」と話す。
たとえば、西洋のスパにも温水プールや温泉はよくあるが、その多くではジャグジーがゴボゴボと轟音を立てて泡立ち、音にかき消されまいと入浴者の話し声のトーンも上がる。
だがラハデの浴槽では、静けさを重視するためにそのトレンド装置を取り払い、泡立ち音の代わりに風の音へ集中できるようにした。
また、冬には常時氷点下で雪が吹きすさぶ立地でありながら、大浴場はあえて、日本の露天風呂を想起させる、屋根のない中庭の屋外に設けた。
筆者が訪れた日も、外気はほぼマイナス20度で、粉雪やダイヤモンドダストが散らつく極寒日だった。
だが、その凍てつく空気のなかで真っ白な湯けむりが立ち上り、舞い降りる雪片を溶かしてゆく光景は、まさに北日本の雪見風呂を思わせる風情を醸し出していた。屋内風呂のほうも、壁一面のガラス窓から美しい自然景観が望める設計になっている。
ちなみにこれらの湯には、温泉ではないものの、ホテルがそびえるタハコ山の土壌から地表へと湧き出る、常時4度のピュアな泉水を引いて利用している。
だからこそ、カルキ臭もまったくないし、水風呂には湧き水をそのまま引水しているので、冷たさも軟水の肌心地も申し分ない。
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