ごみ収集車から流れる「音楽」の知られざるひみつ かつて「放送中止騒動」も、「赤とんぼ」が多い理由

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このような状況から推察すると、ごみ収集時のメロディに「赤とんぼ」が選択される理由としては、他の自治体が選択したのと同じ曲を自らも選んでいった(倣った)からだと思われる。

また、ごみが収集されてその場からなくなっていくイメージや、収集車が去っていくイメージを彷彿させる点からも相応しいメロディだと判断したのではないかと考えられる。また、装置的には「赤とんぼ」メロディがデフォルトに設定されている点からも、「赤とんぼ」が選択されやすかったと思われる。

収集時にメロディを流す自治体では、収集するごみや資源ごとに曲を変えて流しているところもある。

興味深い例としては、大阪市では、ふつうごみの収集時は故・島倉千代子「小鳥が来る街」を、資源ごみは「赤とんぼ」、容器包装プラスチックは「草競馬」、古紙・衣類は「しゃぼん玉」を流している。「小鳥が来る街」は1966年から使用されており、1964年の大阪市の「緑化百年宣言」の際にレコード会社が無償で制作したのが契機となっている。

また、東大阪市では一般家庭ごみ収集時には「赤とんぼ」、かん・びん収集時には「おうま」、不燃の小物収集作業時には、東大阪市イメージソング「東大阪めっちゃ元気な『まち』やねん」(つんく氏作曲)を流している。

収集時にメロディを流す自治体では、ごみの出し忘れや事故対策にもなるため、「清掃車からのメロディの音量を上げてほしい」と要望する声もある一方、「夜勤明けで寝ているのでうるさい」「赤ちゃんが起きてしまうので音量を下げてほしい」という声もある。音量を調整するなどして対応しているが、住民からの相反する意見がある中で担当の清掃課は苦心している。

清掃車の拡声音響装置の多目的利用

筆者は清掃行政についての研究を進めており、住民に身近な清掃行政が擁するリソース(人、モノ、情報)を組織横断的に多角的に活用すれば、住みやすく安心・安全が確保された地域社会になっていくと考えている。今回は清掃車から流されるメロディについて述べてきたが、そのための拡声音響装置に着目すれば、それは広報用にも利用可能であると思われる。

座間市の清掃車の拡声音響装置(筆者撮影)

昨今、局地的な自然災害が増えているが、自治体組織が縦割りになっているため、行政からの機動的な情報伝達が難しい状況になっているのではないかと危惧している。

その際には、もし清掃車に拡声音響装置を装備していれば、普段収集している地域への情報伝達を機動的に行える可能性が高くなる。しかも複数台によって行われるため、情報伝達のスピードが増すことも予測される。

清掃車から流れるメロディを煩わしいと思う住民が存在するが、清掃車の拡声音響装置は危機管理上においても有用に機能すると考えられる。

清掃車に拡声音響装置を装備していない自治体があるが、危機管理の観点から装備を検討してもよいのではなかろうか。

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藤井 誠一郎 立教大学コミュニティ福祉学部准教授

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ふじい せいいちろう / Seiichiro Fujii

1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部准教授などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

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