片道3時間、入院中の72歳母がひとり旅できた契機 息子の結婚式に参列、患者から「新郎の母」に…

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母親の人となりや症状を細かく伝え、安全、快適に過ごすことができる施設をピックアップする。同時に、その頃の翔さんにはもう1つ大きな仕事があった。結婚が決まり、その準備も進めなければならなかったのである。

ケアミックスの相談員との雑談の中で、翔さんはこんなことを語った。

「転勤になった時にも感じたのですが、家族といつでも会えるというのは当たり前の事じゃない。結婚式のタイミングを逃したら、ひょっとして、もう会えないかもしれない。なんて思ってしまうんですよね」

聞いていた担当者が、次のように提案した。

「うちは社内で、ツアーナース派遣の事業会社(日本ツアーナースセンター)もやっているんですよ。もしよかったら、おつなぎしましょうか」

こうした経緯があり、比留間直子さんは、翔さんの結婚式にツアーナースを伴う形で参列することになったのである。

病院と連携し、確実に目的地まで送り届ける

そんな経緯がありながら、迎えた結婚式当日、朝の9時30分。入院中の直子さんを迎えに病院まで行く。今回のミッションは、ご子息の結婚式へのアテンドだ。往復の付き添いはもちろん、式に参加する直子さんの見守りなども任されている。

ツアーに出る前、細山看護師は事前に旅の大まかな計画を立てる。そのために、患者の状態を知っておくことは必須だ。本来は同行する患者の状態や既往歴、性格や食の好みなどは病院側から事前に提供される診療情報提供書や、看護サマリーから詳しく知ることができる。細山看護師はこれに目を通し、患者の状態に則したツアーの全体像を組み立てておく。

ツアー当日の朝には、病院で担当ナースからの直接の申し送りも受けることができた。血圧や脈拍数などのバイタルサイン。食事の制限の有無……などなど、短いが行き届いた報告があり、それらを完結にまとめたメモも用意してくれていた。 

新幹線で軽井沢へと向かう(写真はケアミックス提供)

今日の目的地は長野県の軽井沢だ。病院から東京駅まではタクシーである。最近では車いすごと乗り込み可能なタクシーも増えているが、直子さんは短い距離なら歩くこともできる。ただ、左の膝関節に小さな障害があり、左足を少しだけ引きずるような歩き方をする。もちろん、これも病院の担当ナースからの申し送り事項の1つだ。

細山看護師は直子さんの左側に立ち、エスコートするように支えながら、タクシーへの乗り込みを支援した。駅の窓口で声を掛け、しばらく待つと案内の職員がやってきた。JR側にも連絡を入れているので、この日のオペレーションも滞りがない。新幹線の乗り口まで、車いすを押して案内する。

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