高次脳機能障害は、さまざまな症状が見られるのだが、人によっては尿意や便意を感じにくくなる。本来は尿意を感じてもいいくらいの状態であっても、「トイレに行きましょうか」とストレートに問いかけると、「いや、今は大丈夫」と断られ、後々の失敗につながることもある。
そのようなことを見越して、細山看護師は何気なく直子さんを、トイレに誘導したのである。これもツアーナースのテクニックの1つだ。
病気や障害があっても、人は旅に出る権利がある。状況が許すのであれば、どこへでも出かけて行き、好きなように過ごしたい。ツアーナースはそうした人たちをサポートし、理想の旅を支える。
また、学校の修学旅行や課外活動などに付き添って、生徒たちの体調管理や急病・ケガの対応を行うのもツアーナースの大切な仕事だ。
ただ、現在もツアーナースの認知度は高いとは言えない。その存在を知らずに、旅行や外出の機会を逃している人は多いはずだ。前出の比留間直子さんは、ご子息である比留間翔さんのたっての希望により、入院先の病院から結婚式場までの日帰り旅行が実現した。翔さんがツアーナースの存在を知ったのはちょっとした偶然からだった。
結婚を機に、ツアーナースの存在を知った
母子家庭で育った比留間翔さん(30)は、就職後は転勤族で、母親の直子さんとは長く離れて暮らしていた。2019年の年末に、地元の東京都に戻って来ることになったのだが、折り悪くその年、直子さんは脳卒中を起こし、救急搬送される。
ようやく近くに住むことができるようになると思っていた矢先の出来事だった。
その後、症状はある程度安定したが、新型コロナの流行が追い打ちをかけた。面会を制限され、入院中の母親を見舞うこともままならない。
また、担当医の話では、脳卒中の症状は安定しているものの、後遺症の1つとして、高次脳機能障害が出ているとのこと。時々、今自分がいる場所や時間帯などが混乱することもあるという。在宅での一人暮らしは難しいだろうとの判断だった。
翔さんは、仕事の合間に、直子さんのような既往歴のある人を受け入れてくれる介護施設を探すことになる。とはいえ、若い翔さんに老人ホームの知識はない。関東を中心に展開する施設紹介会社ケアミックスに相談を持ち込んだ。
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