三木谷氏の起業ストーリーが秀逸なもう一点は、「弱者の側に立っていること」だ。
楽天市場には一部、大企業も出店しているものの、圧倒的大多数の出店者が「どこの商店街にもありそうな店」だった。「シャッター街と化した商店街の店がインターネットで大成功するチャンスをつかめるかもしれない」。楽天市場はそんな「弱者の味方」としても、捉えられていたのだ。
そして最後は「起業家として掲げる志の高さ」だ。この記事では「情報産業における日米の差を縮めたい」と語っている。「今どきのベンチャー企業界隈」でよく言われるような「イグジット(出口の意。企業の売却や上場によって、投資資金を回収すること)」といった、「私利私欲」を口にしていないのだ。
三木谷氏の広報的に凄い点
最近、私はある起業家のインタビューをラジオで聴いて、「すごくもったいない」と思ったことがあった。その起業家は非常に将来性を感じさせるペット関連の事業を営んでいるのだが、ペットビジネスを手がけた理由として「市場規模が大きく、強い競合企業が存在しない」ことを挙げていた。
なんとも「正直な告白」ではあるのだが、聴く者の共感や支持を得られるものではない。というのも、聴く者は「他人の財布が分厚くなろうが、どうでも良い」からだ。「世の中を変えようとしている」。つまり「自分たちの生活を良くするために戦っている」からこそ、支持される起業家になりうるのだ。
当時でも三木谷氏はハーバード大学のMBAを取得し、「ビジネスの言葉」には誰よりも精通している。にもかかわらず、前述の「ペット業界の起業家」のような言葉は決して発していない。
創業初期の三木谷氏の広報的に凄い点は「自らのなかにあるメディアが好む要素を極めて早い段階で把握し、徹底して繰り返したこと」なのだ。おそらく初期にメディアのインタビューを受け、「こう語れば、メディアに支持される」というポイントを瞬時に肌で感じ、実践したのではないだろうか。
圧倒的多数の起業家は「自分のなかにあるメディアに支持される要素」にそもそも気づくことができない。
私が起業家の広報PRのプロデュースを行う際には、まず長時間のインタビュー取材を行って、メディア、そしてその先にいる視聴者・読者が支持する起業ストーリーの要素を掘り起こす。「ビジネスとの言葉」とも齟齬がないようにしながら、起業ストーリーを編集するのだ。創業初期の三木谷氏はこの困難な作業を「自ら」「瞬時に」行っていたということである。
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