さて、起業初期は「広報巧者ぶり」を如何なく発揮していた三木谷氏だが、徐々に世間やメディアの風向きが変わってくる。
最初の転機はプロ野球チームの買収だろう。当時、楽天はライブドア社長であった堀江貴文氏と球団買収を争っていた。だが、その方法はじつに対照的であった。
堀江氏がいち早くプロ野球買収の意思を表明し、「正面突破」を図ったのに対し、三木谷氏は球界の有力者に「根回し」をあらかた終えた後に意思表明し、最終的に球団を獲得に成功した。堀江氏の「若さ」と対照的な、三木谷氏の「老獪さ」を印象付ける最初の出来事となった。
球団買収後も、三木谷氏の好感度を下げる報道が相次いだ。低迷するチーム成績に業を煮やした三木谷氏が打順や選手の起用法まで、事細かに介入していると報じられたのだ。三木谷氏の「傲慢さ」を感じた人も多いのではないだろうか。
「英語の社内公用語化」は賛否の分かれる施策だ。ただ、ほとんどの会社員にとっては「自分の会社ではなくて、よかった」と思うものではないか。
ほかにも楽天が「市場」「トラベル」「ポイント」そして「モバイル」と、「お家芸」のように「シェアを握るまでは好条件で勧誘するが、後から都合よく条件変更すること」も嫌われる理由だ。
「根回しの巧みさ」「過剰な現場介入」「社内のルール変更を独断で進める」「後から都合よく条件を変える」。そんな三木谷氏の姿は「仕事はできるけど、好きになれないエリート上司」、あるいは「自分の会社の困ったワンマン社長」など、多くの会社員にとっては「身近にいる好きではない人」を思い出させるものかもしれない。
三木谷氏は楽天創業以来の危機を救えるのか
さて、三木谷氏は広報的に「かつての輝き」を取り戻すことはできるのだろうか。困難な道筋ではあるが、私は可能だと見ている。
なにしろ三木谷氏の実績は、ネット起業家としては「圧倒的」だ。買収や海外企業との提携に頼らず、ネットサービスを「自ら」立ち上げ、「次々と」成功させた起業家は他に見当たらない。過小評価されている感すらある。
Xの投稿を見ると、三木谷氏に「脇の甘さ」や「言葉の軽さ」を感じることも多い。私自身、まだ中目黒の雑居ビルに本社を構えている頃、楽天を取材したことがある。当時、三木谷氏はバランスボールに乗って、執務していた。三木谷氏に1時間ほどインタビューしたのだが、詳細は省くが「無防備さ」を感じさせる発言もあった。
Xでの投稿、そして当時を思い出すと、三木谷氏は世間のイメージとは裏腹に、じつはかなり「ピュア」なのかもしれない。いずれにしても、「攻め」と「守り」の両面で再構築の余地は大きいと言えそうだ。
楽天モバイルの業績不振が喧伝される今、楽天は創業以来の危機にあるとも言われている。そんな「第二の創業期」にもう一度、日本を代表するネット起業家の「広報巧者」ぶりが見たいと、私は思っている。
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