アラブが「日本に中東和平の調停役」期待する理由 混迷するイスラエル・ハマス戦争の行方は?

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Win-Win交渉術では、妥協は交渉する両者が敗者になることを意味する。妥協は目標を引き下げるからだ。Win-Winの理論では、交渉を決裂させないために妥協案ではなく、クリエイティブオプションを準備することが重視される。つまり、新たな価値の創造、ビジョンの再構築だ。

日本国憲法の戦争の放棄の動機に「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」とあるが、戦争を放棄する姿勢があったとしても、平和を誠実に希求することと、可能なかぎり紛争に関わらない態度は矛盾する。とりわけ、逃げ腰外交は、どの国からも信頼されない孤立の道が待っている。戦後78年、平和あっての経済発展を遂げた日本は中東和平が経済発展の近道なことをアピールすべきだ。

中東和平への関与は日本の国益に合致する

多様で世俗化が進むアラブ世界にはびこる分離主義は時代遅れの幻想でしかない。国際法やルールだけをかざしても現在進行中の戦争を止めることはできない。理由は両者ともに国際ルールより、自分たちの論理を優先する傾向が強いからだ。中東和平への関与が日本の国益に合致することを見据え、あえて火中の栗を拾う決断が重要だろう。

ポピュリズムの風がSNSを通して吹き荒れ、冷静な判断より、その時々の感情で世論が移り変わりする時代をハマスはうまく利用している。日本が得意なバランス外交や宥和外交だけでは調停役にはなれないだろう。

異文化理解を深め、異文化間のコミュニケーションスキルを磨き、寛容さと柔軟性、透明性を高め、国益を見据えた誰もが納得する明確なビジョンに対する信念を持って多角的積極外交を展開するときが来ているように思われる。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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