アラブが「日本に中東和平の調停役」期待する理由 混迷するイスラエル・ハマス戦争の行方は?

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イランは、今回のハマスによる攻撃で関与が疑われているが、反欧米の中国の仲介でサウジアラビアとの外交関係を強化しているため、その流れを壊す行動には表向き出にくい。イランが乗り出せば、中東全面戦争に発展する可能性が高く、イスラエルとの信頼関係はないに等しい。

ハマスのイスラエル攻撃直後から仲介役に意欲を見せるトルコのエルドアン大統領は、ウクライナ紛争でも調停役の立場を表明したが、今回も成果は出ていない。理由はトルコがハマス擁護者であり続けているからだ。2018年にエルドアン氏がイスラエルのネタニヤフ首相に宛てたツイートの中で、「ハマスはテロ組織ではないし、パレスチナ人はテロリストではない」との認識を示した。

現在、人質解放交渉などで名前が挙がっている中東カタールには、米軍が駐留する広大な米空軍基地の本拠地があり、アメリカとの緊密な同盟国であるとともに、ハマスの指導者の亡命先でもある。カタールは長年にわたり、アメリカや欧州が困難な交渉で直接取引したくない相手国との代理交渉をした過去もある。

カタールに本拠地を置く報道専門衛星TV局、アルジャジーラはガザ地区の現地取材を続ける数少ないアラブ系メディアだが、すでに現地取材中の記者と家族数十人が殺害されている。アルジャジーラはアラブ世界では貴重な情報源だが、アラブ世界を敵に回す場合もある。現状では、カタールはハマスのイスラエル大規模攻撃を非難しておらず、イスラエルのカタールに対する不信感は消えていない。

親パレスチナのデモが世界に波及

西側諸国が一斉にイスラエル支持を表明する中、われわれは毎日、イスラエルのパレスチナ自治区ガザで乳幼児を含む民間人の死の報道を見せられている。結果、どんなに欧米メディアがユダヤ寄りだとしても、その惨劇に心が揺さぶられ、パレスチナ人への同情は、親パレスチナデモとしてロンドン、パリ、マドリッド、ニューヨークに波及し、同時に反ユダヤ主義の行為も急増した。

これは過激派組織イスラム国(IS)が勢力を一気に拡大したときとの大きな違いだ。世界中の虐げられたアラブ系の若者が聖戦主義にひかれ、次々とIS戦闘員になる現象が起きたが、彼らによる斬首を繰り返す残虐映像が拡散し、世界中で嫌悪感は強まった一方、支持する国際世論は形成されなかった。

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