便が薬に?腸炎などで進む「糞便移植」実態と懸念 約22万人の患者がいる指定難病への適用に期待

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人の便の中にある腸内細菌叢を溶かした溶液を肛門から注入するので、他人の糞便を直接、体内に入れるわけではありません。けれど、嫌悪感を持つ人もいるようです。

心理的な障壁を越える方法

さらに、未知の部分が多いため、予期せぬ副作用が起こるリスクもゼロではありません。

2019年にアメリカで報告されたFMTによる死亡例は、移植された便に薬剤耐性を持つ大腸菌が含まれていたことが原因でした。また、肥満傾向がある提供者からの便を移植したら太り始めたという例もあります。

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近年は美容外科などで、ダイエット目的で痩せ体質の人の便を移植するケースもあるそうですが、リスクがあることは十分に知っておくべきでしょう。

便の提供者にとっては病原性のない腸内細菌でも、患者側には病原性を発現する可能性もあります。

そこで注目されているのが、自分が健康な時の便を保管しておき、将来病気になってしまったときに活用する方法です。心理的な負担もなく、他人の便を使用するよりも適合しやすく、治療効果が高いと期待されています。

腸内細菌叢は「もう1つの臓器」とも呼ばれています。FMTは、これまで投薬や手術でしか対処できなかった疾患を治療する切り札になるかもしれません。まずは、日本での研究や臨床試験が海外並みに進み、知見が積み重ねられることが大切です。

【ポイント】
・健康な人の腸内細菌叢を移植する糞便移植では、近年、便バンクの整備も進んでいる
・腸内細菌叢の乱れは、消化器疾患だけでなく、肥満、糖尿病、うつ等にも関係している
・他人の糞便に対する嫌悪感やリスクから、健康時の自己糞便の保存が注目されている

茜 灯里 作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師

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あかね あかり / Akari Akane

東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。東京大学農学部獣医学課程卒業。朝日新聞記者を経て、東京大学、立命館大学などで教鞭をとる。著書に、第24回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作『馬疫』(2021年、光文社)、『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)。分担執筆に『ニュートリノ』(2003年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007年、化学同人)など。

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