便が薬に?腸炎などで進む「糞便移植」実態と懸念 約22万人の患者がいる指定難病への適用に期待

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『ガーディアン』紙は「国家の規制当局が承認した世界初の事例」としていますが、オーストラリアで認可されたのは再発性のクロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium Difficile infection:CDI)に対してのみで、これまでもアメリカで同疾患に対する糞便移植が規制当局のアメリカ食品医薬品局(FDA)に認可された事例があります。といっても、ニュースの価値が下落するわけではありません。

アメリカ・シンクタンクは、糞便移植や糞便由来の治療薬の市場は2025年頃までにアメリカ国内だけで500億円規模になると予想しています。アジアやヨーロッパを加えると1000億円規模になると見積もられています。イギリス連邦での初めての承認は、世界的な拡大に拍車をかけると考えられます。

FMTは日本でもCDIに対する先進医療として臨床応用が始まっており、「アイバンク」や「骨髄バンク」のような「便バンク」の整備も進んでいます。今後の有望分野である糞便の医療利用を概観してみましょう。

病気の発生に関わる腸内細菌叢

ヒトの腸内には約1000種類の細菌が生息し、その総数は100兆から数100兆個、重さにして1〜2kgといわれています。これらの腸内細菌の全体を腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼び、代謝を通じて細菌同士や宿主であるヒトと複雑なやり取りをすることで、ヒトの健康や病気の発生に大きく関わっていると考えられています。

善玉菌、悪玉菌という呼称や、腸内細菌の健康への影響は、一般ニュースにもよく取り上げられます。ヒトの腸は母親の胎内にいるときは無菌状態ですが、自然分娩では産道、帝王切開では母親の皮膚にいる菌に触れて、最初の腸内細菌となります。

1960年頃までは腸内にいる細菌は大腸菌だけだと思われていましたが、その後、研究が進んで多種多様な細菌が集合体を作っていることがわかりました。

2000年代に入ると、腸内細菌の研究は飛躍的に進みました。1990年にプロジェクトが立ち上げられた「ヒトゲノム計画」は、ヒト遺伝子の全解読という成果のほかに、遺伝子解析用の機器も発展させました。

遺伝子の大量解析ができる「次世代シーケンサー」の開発によって、1つひとつの腸内細菌を培養して観察しなくても、腸内細菌叢にどのような細菌がいるかを網羅的に調べることができるようになり、2007年にはアメリカで「ヒトマイクロバイオーム計画」という人体に棲む細菌を探る国家プロジェクトが立ち上がります。

腸内細菌の研究が進むにつれ、腸内細菌叢の乱れは炎症性腸疾患や過敏性腸症候群などの消化器疾患だけでなく、肥満、糖尿病、関節リウマチ、うつなど、さまざまな疾患に関係していることが明らかになってきました。

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