便が薬に?腸炎などで進む「糞便移植」実態と懸念 約22万人の患者がいる指定難病への適用に期待

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ところが、健康な人の腸内細菌叢を細菌培養によって患者に再現することは、細菌の種類が多く、構成が複雑なことなどからほぼ不可能です。そこで、健康な人の腸内細菌叢を患者の腸内に移植するFMTが注目されるようになりました。

もっとも、FMTによる治療は、東洋医学では予想以上に古くから行われており、4世紀の中国の文献には「下痢が止まらない人に、健康な人の便をお尻から入れたら治った」と書かれています。

西洋医学では、1958年に医師のアイズマンらによって4名の再発性の偽膜性腸炎患者に1〜3回のFMTが施され、全例で副作用なく症状が改善されたと初めて報告されました。

FMTが世界的に広まったきっかけは、2013年に医師のファンノードらが、クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)に対して1回投与で81%、複数回の投与で94%という顕著な再発抑制効果と腸内細菌叢の多様性が回復されたことを示した報告です。

CDIは、抗菌薬を外科手術で大量に使ったり、長期間使ったりすることで、抗菌薬に耐性を持つクロストリジオイデス・ディフィシル菌だけが異常繁殖して、腸内細菌叢が乱れることが原因で発症し、最悪の場合は命を落とします。アメリカでは毎年50万人が罹患し、3万人が死亡するといわれています。

アメリカなどで「便バンク」が設立

それまでの治療の主流は、なんとか効き目のある抗菌薬を探して投与することでしたが、再発するものは治療が困難でした。

その後、アメリカでCDIに対するFMTが通常医療として認可されると、アメリカ、オランダ、中国などで健康な人の便を集めた「便バンク」が設立され、CDI患者に正常な腸内細菌叢を供給できる体制が整うようになりました。アメリカの最大の便バンク、オープンバイオームOpenBiomeでは、2021年9月までに6万件の提供実績を達成しています。

日本では、外国と比べてCDIが重症化しにくい事実や、保険適用外の時代が長く医師が自由診療のリスクを避ける風潮などがあったため、FMTの普及は遅れています。しかし2013年から大学病院など8つの施設で臨床治験が始まり、便バンクも立ち上がりました。

2020年1月には、順天堂大、東京工業大、慶應義塾大の研究者によって「FMTの社会実装と腸内細菌叢の医療・創薬を推進」を目的としたベンチャー企業、メタジェンセラピューティクス株式会社も設立されています。

日本では、FMTは国の指定難病で約22万人の患者がいる潰瘍性大腸炎への適用が特に期待されています。現在は薬物療法や外科手術が採られていますが、いくつかの臨床試験ではFMTの有効性が示されています。

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