意外と知らない「人種」という概念が広がった経緯 「科学的人種論」は否定されても残っている差別

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この俗説に反論を試みたのがドイツの人類学・博物学者ヨハン・ブルメンバッハ(医者でもあった)。1787年の論文で黒人の生理的・精神的能力を検証し、「精神的な機能や能力」に関し、黒人は「他の人種に劣っていない」と論じた。さらに西アフリカ出身の作家(女性詩人フィリス・ホイートリーなど)の作品を集め、可能であれば書簡を交換して、彼らの知的能力がヨーロッパの一流知識人と対等であるとの確信を得た。

ただしブルメンバッハは人間を5つの人種(コーカサス人、モンゴル人、マレー人、エチオピア〔アフリカ〕人、アメリカ人)に分けた上で、最初の人類はコーカサス人(白人)だと論じている。

「科学的」人種論

対して複数起源説を唱える人々は、すべての人の起源が同じはずはないと考え、起源が異なるからこそ人種間には知性や道徳性などの面で優劣があると論じる。要するに生まれつきの違いということで、18~19世紀の南北アメリカでは、この主張が社会的な序列や植民地支配、そしてアフリカ人の奴隷化を正当化するために使われた。

イギリスの著名な哲学者デビッド・ヒュームも複数起源説をとり、人種間に序列をつけていた。1753年の「諸国民の特性について」と題する論考の脚注に、ヒュームはこう書いた。「ニグロ(黒人)」は「生来、白人より劣って」おり、そもそも「白以外の色」の民族に文明があった試しはない、と。この注釈は後に、奴隷制擁護の議論でしばしば引用された。

アメリカでは、医師で解剖学者のサムエル・モートン(1799~1851年)が何百もの頭蓋骨を検視した結果として、脳の容量はコーカサス人(白人)が最大で、黒人は最低だと報告した。こうした「科学的人種論」(人種による区別には客観的な「証拠」があるとする議論)は、モートンの同時代人で外科医だったジョサイア・ノットを喜ばせた。ノット自身も黒人を奴隷として「活用」していたからだ。

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