意外と知らない「人種」という概念が広がった経緯 「科学的人種論」は否定されても残っている差別

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ただしベルニエは、人種による上下関係を提唱したわけではない。むしろ、自分の分類は自分が旅先で出会った人々の観察にもとづくものにすぎないと弁明している(ただしその観察は主観的で、かなり差別的ではある)。

その後、ベルニエに刺激されて多くの旅行者や学者が見かけや文化の違いにもとづく「人間の分類」に手を染めるようになった。そうなると、当然のことながら人類の起源や、「人種」による知能や文化、道徳性などの違いが論じられることになる。

人類の起源についていえば、18世紀のヨーロッパには2つの考え方があった。人類の起源は1つとする単一起源説と、いや1つではないとする複数起源説だ。

起源は同じでも異質

キリスト教徒やユダヤ教徒(そしてイスラム教徒)は、たいてい単一起源説だった。共通の聖典である旧約聖書に、アダムとイブが最初の人類と書いてあるからだ。それでもアフリカや南北アメリカを植民地化していく過程で、ヨーロッパ人の間には自分たちのほうがアフリカ人やアメリカ先住民より優れているという信念が生まれた。

1735年、スウェーデンの植物学者カール・リンネ(医者でもあった)は『自然の体系』を著し、すべての動植物の系統的な分類を試みた。そして(「動物」という項目の下で)人間を大陸別に4つ(ヨーロッパとアジア、アメリカ、アフリカ)のタイプに分け、それぞれ肌の色が異なるとした。

同書の第10版(1758年)で、リンネは人間の分類基準に外見や気性、そして「人々がいかに統治されているか」をつけ加えた。たとえば「ヨーロッパ人」は筋肉質で賢く、「豊かな黄色い髪と青い目」をもち、法律によって統治されている。対してアフリカ人は「怠惰」で「ずるく」、「ものぐさ」で「怠け者」であり、恣意的に統治されている──要するにヨーロッパ人より劣っているということだ。

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