まゆみ(58歳、仮名)が「再婚したい」と入会面談にやってきた。32年連れ添ってきた夫(58歳)と昨年、熟年離婚したという。
「元夫は、短気でキレると暴言を吐いて暴れる。典型的はモラハラ夫だったんです」
ただ結婚した32年前には、モラルハラスメントという言葉はなかった。夫が妻に暴言を吐くのは、普通にまかり通っている時代だった。まゆみの父や母は昭和10年代の生まれで、夫婦喧嘩をすれば父が母をののしった。
「この役立たずが。誰のおかげでにメシが食えていると思っているんだ」
母はただオイオイと泣くだけで、決して言い返したりしなかった。そのうち父の怒りが治まり、また普段の家庭生活に戻る。そんな家庭のなかで大きくなった。
なので、結婚当初は夫の暴言も、「男はこんなものか」と思っていたし、人格否定をされるような暴言を吐かれても、聞き流してきた。
モラハラ夫に離婚を突きつけ
ところが、時代の流れとともにまゆみの意識が変わってきた。会社で部下の人格否定をした上司が裁判で訴えられる。女性議員が秘書を車のなかで口汚くののしり、その録音テープが流失してワイドショーが報じる。
モラハラは、刑事責任を問える犯罪だということが一般的に浸透してきて、まゆみは、ふとその状況を自分に置き換えるようになった。
「子どもが小6のとき、あることでキレた夫がいつものように暴言を吐きながら、部屋のなかで暴れていたんです。それで、私が言ったんですね。『あなたが今、私に言った言葉、やっていることはモラルハラスメントで、刑事責任が問える犯罪よ』と」
その言葉を聞いた夫は逆上した。そして怒鳴った。「なに理屈をこねてるんだ。死ね!消えろ!」。
まゆみは私に言った。「そのときにこの結婚は終わったと思いました。“死ね”って、私の存在を全否定していることですよね。その日を境に、離婚を考えるようになりました」。
ただ、子どもの中学受験があった。今騒ぐことで子どもを精神的に不安にさせるのが嫌だった。また、それまでパートタイムでしか働いていたことのなかったまゆみは、離婚後の経済状況も不安だった。
「そこから私の離婚10年計画が始まりました。子どもが中学生になったら、フルタイムで働ける仕事を見つける。そのためには、資格が強みになると思って、宅建(宅地建物取引士)を取ろうと勉強を始めたんです」
1年後には資格も取得し、不動産会社に社員として就職をした。
そして、10年後、夫の定年と息子の就職が重なったのをきっかけに、サイン済みの離婚届とともに、離婚を切り出した。夫は一瞬ギョッとした顔をしたが、すでに日々の夫婦関係は冷え切っていたので、もめることなく離婚に応じた。
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