てつや(69歳、仮名)が入会面談にやってきた。
初婚であるが、これまで結婚しなかったことに特別な理由があったわけではない。日本の大学を卒業後、海外の大学に留学し、修士と博士を取得。その後、しばらくは海外で働いていたが、のちに日本に帰国し、日本の外資系企業で働いていた。
「結婚を考えたこともありましたが、海外を転々として、帰国したときには、いわゆる適齢期を逃していた。50代になって大手結婚相談所に入会し、お見合いもしましたが、結婚にいたる女性には出会えずに、ここまで来てしまいました」
華やかな経歴のうえに、若い頃からしっかりと資産形成をしてきたので、一生生活をしていくのには困らない貯金と株の配当金がある。そこに加えて年金も支払われているので、悠々自適。1人で生活していくにはかなりの余裕があった。
「ただ、今まで築いてきた財産を、受け継いでくれる人が誰もいないんです」とてつや。
両親はすでに他界。兄と弟も他界していた。
「結婚相手はお子さんがいてもいなくても、どちらでもいいです。いたらむしろ、財産を受け継いでもらえる。国に持っていかれるよりいい」
身寄りがなく、法定相続人もいない場合、死亡した人の財産は最終的に国に帰属することが、民法959条「残余財産の国庫への帰属」で定められている。
てつやは、見た目も清潔感があり、金銭面での条件が良かったからか、登録をすると50代、60代の女性たちからかなりの数のお申し込みが来た。
結婚相談所の交際には、お見合いの後に入る仮交際、その後結婚を前提として付き合う真剣交際の区分がある。仮交際はお人柄を見る期間なので、複数とお付き合いできるし、新しいお見合いをしてもよい。そこから、結婚を真剣に考えられる相手が出てきたら、一対一の真剣交際に入る。
てつやは4人とお見合いした後、50代後半の女性と仮交際に入った。お見合い申し込みは、ひっきりなしに来ていたが、「自分は器用ではないから、今はこの交際を大事にしたい」と、その女性と向き合っている。
うまくいってほしいと、仲人としては願っているが、もしその女性とご縁がなかったとしても、お見合いの申し込みは日々来ているので、次の見合いもおそらく組めるだろう。そして、成婚していくのではないだろうか。
貯金のない年金暮らしは不安だらけ
みわ(59歳、仮名)は、20代の子どもが2人いる。下の子が社会人になったのをきっかけに婚活をスタートさせた。5年前のことだ。夫とは25年前に死別している。
「夫は病死だったのですが、亡くなったときは茫然としました。スポーツマンだったし、あんな元気な人が病魔にやられるなんて」
子どもたちは、まだ小学生だった。
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