ヤマザキマリさん「ウサギの煮込みと作家の記憶」 「質感ある教養」をもたらしてくれた人たちの話

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私はある日ピエロとセルジオを家に呼んで、カラブリア出身の友達から教わったウサギの煮込みを作ったことがあった(写真:Fomaa/PIXTA)
漫画家・文筆家として幅広く活躍するヤマザキマリさん。17歳でイタリアに単身で渡って以来、世界のさまざまな土地で出会ったかけがえのない人たちを描いたエッセイ『扉の向う側』から一部抜粋し、とっておきのエピソードを3回に渡ってお届けします(第2回)。

近所に美味しい食堂があったり、夫の実家がそばにあることで、パドヴァで暮らすようになってからというもの、私は滅多に料理をしなくなってしまった。しかし先日ふと思い立って、フィレンツェに留学中同居人の学生に作り方を教えてもらったウサギの煮込みをこしらえてみることにした。料理といっても大して手がかかるわけでもなく、肉屋で調達してきたぶつ切りのウサギの肉をオリーブオイルとトマトと唐辛子で煮詰めるだけの簡単な一品だ。

ウサギ料理を褒めてくれた人たち

もの凄く久しぶりに作ったわりに、そこそこ美味しく仕上がったウサギの煮込みは、夫とふたりであっという間に平らげてしまった。ウサギ1羽の半分しか肉を使わなかったから、ふたりで食べるには若干少な過ぎたかもしれない。肉汁と一緒に煮込まれたトマトのソースを、熱心にパンで拭っている夫の仕草を見ていると、むかし、私のウサギ料理を褒めてくれていた人たちの顔が記憶の中から浮かんできた。

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