ユーハイムの「AI職人」を進化させた意外な存在 神戸にAIラボ開設のマイクロソフトが支援
”ユーハイム伝統の生地を作る職人”を教師として育てられたTHEOは、その技術を再現する目的でしか作られていない。そのためネット接続は考慮せず、スタンドアローンで動作する。異なるレシピや、別の職人が作るバウムクーヘンにも対応できないシステムだった。
職人の技を学習させることだけに特化したTHEOは、その仕組みも実はシンプルだ。オーブン手前にあるCCDカメラが焼き目や生地の塗布状況をモニターしつつ、放射温度計と庫内温度計が連動して焼き加減をモニターして記録を取り続ける。
推論モデルはユーハイムが独自開発したもので、職人はこのTHEOでバウムクーヘンを焼くことにより、AIモデルを育てる。現在のTHEOは、ユーハイムの中でも最もベテランの菓子職人歴50年を超える人物の技術を学習させたものだ。
柔軟性のないシステムをどう進化させるべきか。そこでマイクロソフトのAIラボ誘致に向けて動いていた神戸市が紹介役となり、レドモンドのAIラボと協業の下、新たなTHEOの開発が進められることとなった。
”職人の個性”をコンテンツ化
レドモンドのエンジニアが興味を持ったのは、このベテラン職人とTHEOの間に一種の師弟関係が生まれていることだった。
ユーハイムの河本英雄社長によると、バウムクーヘンは「1000人の職人がいれば、1000通りのバウムクーヘンがある」というくらい、焼き上がりと味わいに違いが出る。そんな中で、職人自身が”自分と同じバウムクーヘン”を焼き上げるTHEOに愛着を持つようになったという。愛着を感じるのは、個性があるからにほかならない。この個性こそが、”十人十色のバウムクーヘン”というコンテンツにもなる。
ユーハイムのベテラン職人だけではなく、全国の洋菓子店はもちろん、世界中の菓子職人のノウハウをダウンロードし、その焼き上げ方を再現できるようになれば、職人の技術や個性をコンテンツ化することにつながる。
レドモンドのAIラボが支援に動いたのも、失われつつある個人に帰属する技術をAIで再現するというアイデアに、可能性の大きさを感じたからだろう。
AIラボのチームはごく初期段階の改良を行うため、THEOのシステムをネットワーク化すること、つまりTHEOをIoT化するところから着手した。AIモデルをクラウド上で管理し、ネットを通じて入れ替え可能にすることで、異なる職人のAIモデルや別のレシピにも対応できるようにした。
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