ユーハイムの「AI職人」を進化させた意外な存在 神戸にAIラボ開設のマイクロソフトが支援
現時点において、マイクロソフトが出資するOpenAIの推論モデルがTHEOに入っているわけではない。IoT向けのクラウドソリューションを用い、モデルデータを差し替えるなどのIoT化が始まったばかりだ。
ユーハイムでは、全国のドイツ菓子職人が作るモデルデータを安全に配布できるシステムとし、多様なレシピを流通させ、その売り上げがモデルデータを鍛えた職人に還元する仕組みを模索しているという。バウムクーヘン発祥の地であるドイツと日本の職人が、その技をネットを通じて交換することも可能になる。
”ものづくり”の観点で見ると、職人仕事という、もっともIT化からは遠い分野で職人技のAIモデルを構築することにより、後継者不足などの問題解決が期待できる。日本全土を見渡せば、職人でなければ仕上げられない少量生産の製品が、より大きな産業を支えている例は少なくないだろう。
生産効率を求める現代では、”熟練の技が支えるものづくり”というスタイルそのものが生産性を下げるのでは?という指摘もあるかもしれない。しかし日本のような人口減少社会では、いずれさまざまな分野で人材不足が顕在化し、数ではなく質による違いで勝負せざるを得なくなる。
技術そのものが失われる局面に至る前に対処の手段を持つことが重要だ。
他ジャンルでも事例誕生なるか
マイクロソフトの後ろ盾も得た「THEO 2.0」は今後、神戸のAIラボで次のステージへと開発テーマが進められる。「THEOにセンサーやカメラを追加し、AIラボと共同で推論モデルを進化させたい」と、ユーハイムの河本社長は話す。
推論モデルがより汎用的なものになれば、生地にカカオや抹茶を混ぜるなどといったアレンジにも、柔軟に対応できるようになるだろう。汎用性が高まれば、大規模言語モデルを用いることで、消費者あるいはTHEOの派遣先のニーズに応じた”カスタムオーダー”も行える。
「THEO、焼きたてをその場ですぐに提供するから、フワフワの柔らかめに焼き上げて」「抹茶を5%入れた生地で贈答品にするから、少し締まった仕上げにして」といったカスタマイズもできるだろうか?と尋ねると、河本社長は次のように話した。
「いつまでも匠の技を残すだけではなく、現役の職人に陽が当たるようにしたい。THEOに好みを伝えると、”それなら今日はザルツヴェーデルに住む親友を推薦するよ”と答え、地球の裏側の職人が焼くバウムクーヘンを再現する。そんな未来にしたい」
マイクロソフトの神戸のAIラボのテーマは職人技だけではないが、THEOに影響を受けた他ジャンルの事例誕生も期待できるだろう。AIラボには、神戸市内に本社を置く中小企業やスタートアップ、大学などを対象に無料利用できる枠組みも設けるという。
地域にある大学、高専などでソフトウェア開発を学ぶ学生が、学校の枠を超えて集まってアイデアを出し合い、AIラボでプロジェクトを提案、開発する計画もある。神戸市は他都市のAIラボとの連携や、海外の学生や起業家との情報交換を通じ、神戸発のスタートアップの誕生を期待する。
日本には自動化が難しい職人技術が支える事業領域が今なお残っている。後継者不足の声が上がる中で、AI職人のロールモデルが神戸から生まれてくるかもしれない。
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