ユーハイムの「AI職人」を進化させた意外な存在 神戸にAIラボ開設のマイクロソフトが支援

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THEOは職人が手作業でバウムクーヘンを焼き上げるノウハウを、高精細のCCDカメラや放射温度計などのデータを通じて学習、再現させるオーブンだ。

ユーハイムが開発した「THEO」。機械学習により、熟練職人の技を再現する(筆者撮影)

日本人にとってはポピュラーで手軽な焼き菓子のイメージがあるバウムクーヘンだが、実は”本来の焼き方と味わい”を得るには、職人による手焼きが不可欠だという。一般的な量産型のバウムクーヘンは、乳化剤を用いた粘り気の少ない生地を薄く均一に塗布し、均一の焼き加減で同じ品質の商品を大量生産する。

しかし発祥の地のドイツでは、乳化剤などの添加物を加えるとバウムクーヘンを名乗れず、当地での菓子職人の資格を得る試験の項目には、バウムクーヘンの手焼きが盛り込まれているという。柔らかく滑らかな本来の食感と風味を重視するためだ。

乳化剤などの添加物なしでは量産が難しく、本国ドイツではこの制約から、バウムクーヘンが”珍しい焼き菓子”になってしまった。実際、バウムクーヘンを食べたことがないドイツ人は多いという。

コロナ禍で全国に“派遣”

一方、大正時代に創業したユーハイムは、バウムクーヘンにこだわって生き残ってきた老舗の洋菓子店である。現在も職人が火加減と回転軸の操作を手作業で行いながら焼き上げており、本来の食感やバターたっぷりの香りを現代に伝えている。

ただ、この製法は職人による匠の技が欠かせない。そのためユーハイムは、CCDカメラによって焼き目や生地の塗布状況をモニターしながら、表面温度や庫内温度の履歴を機械学習させて同じ焼き方を再現するTHEOを開発したという。

5年の開発期間を経て完成した直後に訪れたコロナ禍では、新たな需要も生まれた。

職人の引退などでバウムクーヘンが作れなくなった地方の菓子店などから、職人派遣の依頼がユーハイムに来ても、コロナ禍では難しい。そこで職人の技を学習させたTHEOを貸し出すことを思いついたのだ。現在、THEOは全国に21台が”派遣”され、それぞれの環境で活躍している。

極めて”先進的”と言えるTHEOだが、活躍の場が広がる過程で、「抹茶を混ぜた生地で作りたい」などといった新たなニーズが生まれると、壁にぶち当たった。

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