「本社」から「新規事業」が育たない納得の理由 イノベーションが生まれる場所を図で考える

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わかりやすい例を紹介しましょう。現在、皆さんが使っている洗面台の蛇口です。今では、シャワーの形をしたものがほとんどで、ノズルを引き延ばし、シャンプーすることもできます(昔はひねると水やお湯がでる普通の蛇口が2つ付いていたものでした)。このアイデアはメーカーではなく、ユーザーがもたらしたものでした。

そもそもの始まりは、TOTOが洗面台(シンク)の大型化を低コストで実現したことにありました。ユーザーアンケートをしたところ「小物洗いに便利そう」という声が聞こえてきたので、小物洗いができる洗面台として売り出しました。でもこの大型シンク、ほとんど売れなかったそうです。

そこで困ったマーケターが、買ってくれた数少ない顧客にインタビューを行ったところ、「朝、娘が会社に行く前に髪を洗っている」という声が何件か聞こえてきたのです。

そこで、今度は「シャンプー・ドレッサー」として売り出しました。結果大成功し、「朝シャン」ブームが起こったのです。やがて洗面台は今の形へと進化していきました。この例でわかるように、大きな洗面台の価値を発見したのは、メーカーではなくユーザーだったのです。

同心円の中ではなく外に目を向ける

さて、同心円のさらに外側へ行くとどうでしょう。

公的機関ということでは、大学や国の研究所などは言わずもがなですが、たとえば、軍隊などもイノベーションの源になっています。実は多くの軍事技術が、民生品に転用され、私たちの生活の役に立っています。GPS、インターネット、衛星画像、ルンバ。これらはもともと軍用製品が出発点です。

このように、イノベーションの源はかなり幅広に存在するのですから、それらを活用しない手はありません。

皆さんが、イノベーションの新しい種を探す、あるいはイノベーションを起こせる人を発掘するということを考えた際には、ぜひこの同心円を意識して、外側の「辺境」に向かってみてください。

平井 孝志 筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授

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ひらい たかし / Takashi Hirai

東京大学教養学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー、デル(法人マーケティング・ディレクター)、スターバックス(経営企画部門長)、ローランド・ベルガー(執行役員シニアパートナー)などを経て現職。コンサルタント時代には、電機、消費財、自動車など幅広いクライアントにおいて、全社戦略、事業戦略、新規事業開発の立案および実施を支援。現在は、経営戦略、ロジカル・シンキングなどの企業研修も手掛ける。早稲田大学経営管理研究科客員教授、キトー社外取締役、三井倉庫ホールディングス社外取締役。著書は『本質思考』他多数。

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