理研の卓越研究員雇い止めが「不正」である理由 4年半の雇用期間は卓越制度の趣旨に反する

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立法に関わった自民党の衆院議員の大塚拓氏は昨年10月、東洋経済の取材に応じている。その席で大塚氏は、「研究は一つのプロジェクトに5~7年くらいかかる。雇用期間が5年だとどうなるか。最初の1年は準備がありフル稼働できない。

最後の1年は転職活動がある。結果的に真ん中の2~3年しか研究に専念できない。少なくとも5年、研究をしっかりやれるようにするためには7年の期間が必要だ。それで、10年は有期雇用を続けられるように、緊急避難的に改正研究開発力強化法をつくって対処した」と当時のいきさつを明かした。

リーダーポストは時間がより必要

A氏が就いた卓越研究員のポストであるULは一般の研究員と比べて一層、最初と最後に時間を要する。最初は自分の研究室を立ち上げて人を採用する必要があり、最後には、自分の転出先の確保だけでなく、研究室のメンバーの就職の世話や支援もしなければならないからだ。

これらを勘案すると、文科省が「雇用の安定性」が求められる卓越研究員のULのポストを、「雇用期間の目安」の下限である5年を下回る4年半の雇用期間で認めることは、まず考えられない。

理研もこうしたことはよく理解しているはずだ。となると、意図的に、A氏の卓越研究員としての雇用期間が4年半であることを文科省に隠して補助金を得ていたのか。それとも、A氏の主張通り、当初は6年半雇用するつもりだったところ、副センター長の立場でもあるB氏がA氏との関係が悪化したことで翻意して4年半で雇い止めしたのか。いずれにしても「不正」や「不適切」にあたるようにみえる。

9月29日の会見には、理研から理事2人が出席した。理研は卓越研究員の補助金を自主返納する考えはないようだ(撮影:尾形文繁)

結果としてA氏は理研を去り、中国の大学に移籍した。優秀な若手研究者が国内で安定的なポストに就けるように支援する卓越研究員制度が、海外への人材流出につながった。そして、政府が理研に渡した補助金の原資は、言うまでもなく税金である。文科省は理研のお手盛り調査を看過せず、自ら調査を実施すべきだ。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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