調査委の報告書によると、理研は申請書では雇用期間を6年半としか記さなかった一方、参照とした公募資料には10年ルールを記したという。また、A氏を卓越研究員として採用した後には文科省に対し、A氏が2013年4月に理研に入所したことを別の書類を通じて伝えたという。
そのため理研は、「4年半の雇用期間であることはわかるようになっていた」と主張。調査委はこの言い分を基に、「申請書では4年半という明示はしなかったが、(調べようと思えばそれがわかるような)基礎となる情報は文科省に提供されていた」と評している。
しかし、こうした「2階から目薬」のような情報伝達が「適切」かどうかを決めるのは調査委ではない。
そこで文科省の人材政策課に見解を問うた。すると担当者は、「申請書に正確に雇用期間を記載していなければ、文科省としては情報を正しく把握できない。申請書以外にバラバラに載せた情報を確認してくれといわれても、そういうチェックの仕組みにはなっていない」と話した。
では、仮に理研が、申請書に卓越研究員としての雇用期間が4年半になることもあると正確に記していたら卓越研究員制度の利用が認められたのか。
下限を満たさない雇用期間
上記のように、文科省はテニュアになるチャンスのない任期制の雇用で研究機関が卓越研究員制度を使う場合、「5~10年程度の雇用確保等」を求めている。5年は下限であり、4年半はそれを下回る。人材政策課の担当者に、今まで5年未満の雇用の予定で卓越研究員制度の利用を認めた例があるかを確認したところ、「直ちには確認を取れないが、おそらくはないはずだ」と答えた。
改正研究開発力強化法も、研究者に必要な雇用期間を考慮してつくられた法律であり、参考になる。なぜ一般の労働者は有期雇用が通算5年で無期転換申込権が発生するのに、研究者の場合は倍の10年なのか。それは、質の高い研究には5年以上の期間が必要であるという実情を反映したからだ。
労働者が一律に、有期雇用で通算5年を超えれば無期転換の権利を手にする改正労働契約法は、2012年に民主党政権下で成立した。だが、直後に政権交代が起きると自民・公明の連立政権は、このままでは有期雇用の研究者が5年で雇い止めされることを懸念。改正研究力強化法を成立させて、研究者らの無期転換請求権の発生を例外的に10年に延ばした経緯がある。
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