肥満の予防は「水を飲むといい」と言う科学的理由 最近の研究でわかってきた人体の仕組みとは?

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しかし残念なことに、レプチンにも限界があることが判明します。肥満患者の多くは、血中レプチン濃度が高いにもかかわらず、レプチンに対する反応がとぼしくなり、食欲が抑制されないのです。

肥満状態が続くとレプチンに対する反応が鈍り、食欲が抑制されにくくなる(出所:『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』)

つまり、食べすぎを続けて肥満状態になると、レプチンが分泌されても体が反応しなくなる「レプチンの鈍感化」が発生することがわかりました。レプチンに鈍感になると、外部からレプチンを取り入れても、太らない効果を発揮することができなくなります。

この状態を打破するには、レプチンに鈍感になった体に何らかの刺激を与え、再びレプチンに対する敏感さを取り戻す必要がありました。

レプチンの鈍感化を防ぐために

そこで、現代のツバスタチンAの話に戻ります。ミシガン大学の研究者たちは、「レプチンの鈍感化」を防ぐ方法を調べました。

『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

研究者たちはレプチンと相互作用する細胞内の酵素をリスト化。それらを阻害する薬をマウスにひとつずつ投与する地道な作業を繰り返し、ツバスタチンAを発見しました。これは私たちの身体のレプチンに対する敏感さを取り戻させ、体にもともと備わった肥満防止システムを再活性化させることができます。

ただ残念なことに、ツバスタチンAには無視できない毒性があり、すぐにでも夢のヤセ薬が即座に開発できるわけではなさそうです。研究者たちは今、ツバスタチンAの構造を参考にして、毒性を発揮せずにレプチンに対する敏感さを取り戻せる化合物を合成していくことを試みています。

食事制限や運動が理想的なことはいうまでもありませんが、なかなか食欲には勝てないものです。本来私たちに備わっている肥満を制御する能力を引き出してダイエットできれば、それはまさに夢の薬になるでしょう。

中尾 篤典 岡山大学学術研究院医歯薬学域 救命救急・災害医学講座 主任教授

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なかお あつのり / Atsunori Nakao

医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授。1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。

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毛内 拡 お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 助教

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もうない ひろむ / Hiromu Monai

1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。生体組織機能学研究室を主宰。脳をこよなく愛する有志が集まり脳に関する本を輪読する会「いんすぴ!ゼミ」代表。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。研究と育児を両立するイクメン研究者。分担執筆に『ここまでわかった! 脳とこころ』(日本評論社)など。

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