現代の私たちの生活は飽食気味ですが、生物は歴史の中で飢餓に備えて体をやせさせないための機能を獲得してきました。
そのため、食事制限、すなわちカロリーを制限すると、体のほうはやせまいと防衛機能を働かせ消費するカロリーを減らしてしまうのです。せっかくカロリー制限してもダイエットの努力が相殺されてしまう停滞期とはこのような状況です。
この防衛機能は非常に強く、停滞期を突破してもその後も何度も発動します。そのため停滞期を抜けるにはその都度、さらなる食事制限の強化や運動の追加など新たな刺激を与えなければなりません。さらに食べる量を少しでも増やすと、体は即座に反応して、一気に脂肪を蓄えリバウンドしてしまうという最悪のサイクルに陥るのです。
最近、アメリカのミシガン大学の研究チームは、食事制限しても、体の消費カロリーが変化しない有機化合物「ツバスタチンA」を発見し、これにより、わずか数週間でマウスの体重を25%減少させることに成功しました。
30年前に発見された「夢のヤセ薬」の可能性
その研究の前に、今から30年ほど前にも「夢のヤセ薬」といわれた物質が発見された話をしましょう。
1994年、フリードマン博士は食欲と脂肪組織形成を制御するホルモン、レプチンを発見しました。レプチンが分泌されると食欲がなくなります。また、食事制限をすると体のほうはやせまいとして消費するカロリーを減らしてしまうと述べましたが、この消費カロリーのほうも減らなくなります。しかもレプチンが分泌されて減少するのは主に脂肪であり、筋肉量を維持したままの減量が可能になります。
フリードマン博士はその後レプチン受容体も発見しますが、このレプチン―レプチン受容体システムは、私たちが潜在的に持つ肥満を防止する機能であるといえます。
肥満およびそれに関連するメタボリックシンドロームは、現在世界的に最も重要な疾患の1つです。しかし、体重を制御する生物学的システムの詳細はほとんど知られていませんでした。
さまざまなダイエット法を試しては失敗することを繰り返していた人たちにとって、レプチン発見のニュースは朗報で、レプチンが発見された当初は「夢のヤセ薬」ができると期待されていました。