四谷大塚「女児盗撮事件」で見えた性犯罪抑止の穴 「大人2人共謀」という事態にどう立ち向かうか

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日本でも、こども家庭庁が設置され、DBSの議論は同庁の主要な論点として扱われてきた。9月には報告書がまとめられ、学校や保育所等には被用者の犯歴照会の義務を負わせ、放課後児童クラブや学習塾等には認定制とすることを提案している。

認定制とは、塾などには義務付けることが難しいため、自主的にDBSを使うことを決めた事業者には認定マークのようなものを与え、認定を受けた事業者が親などの利用者に安全性をアピールできるようにするという発想だ。

しかし、認定制は、幅広い利用者が安全に対する高い意識を持つことなしには、有効に機能しない可能性もある。また、選択肢が限定される地域などの子どもが被害に遭いやすくなったり、そうなった際に認定を受けていない事業者を利用したことが自己責任とされてしまったりすることはあってはならない。

ほかにも、日本の議論には問題があるという。子どもの事故などに詳しい寺町東子弁護士は「イギリスのOfstedに倣って、子どもに関わる職業に就く人に登録義務を課せば、登録事業を行う国家機関であるこども家庭庁が法務省という国家機関に照会をするだけなので、犯歴は国家機関の外には出ず、個人のプライバシー侵害の危険は小さい。日本の議論は認定した事業者が犯罪歴そのものを照会する形で進んでしまっている。行政コストも高く、反社などに悪用される可能性もある」と指摘する。

初犯を性教育で防げる可能性

政府は、対象となる施設の範囲や規制の強度について検討が不十分だとして、この10月に始まる臨時国会への提出は見送る方針だ。

DBSの議論を着実に進めて再犯を防ぐ方策を打つ必要はあるが、犯罪歴がついてからでは、被害者が出てしまっていることを前提とするうえ、被害が明るみに出にくい性質がある。そのため、初犯を防ぐための取り組みも必要だ。

従来、初犯を防ぐ取り組みの鉄則は「複数の(大人の)目を入れる」であった。密室に子どもと大人が1対1にならないことをルール化するなどだ。しかし、四谷大塚の事件では大人2人が結託していた。一体どうしたら防げるだろうか。

シッターによる性犯罪が明るみに出た後、シッターの補助券事業を監督していた内閣府などからは、監視カメラの導入が推奨された。監視カメラは1つの手段ではあるが、シッターによる事件からは、「カメラの使用は歓迎です」と言って親を安心させて、死角を狙う加害者もいたことがわかっている。

塾長などカメラの映像を管理できる立場にある人が犯罪をすることもある。親からも常に子どもの様子が見えるようにするというのも、子どもにとっては緊張を強いられる可能性もあり、監視カメラはベストな解とは言えないだろう。

1つのカギとなるのは、子どもに知識をつけてもらうことだ。

国際的には国連教育科学文化機関ユネスコ(UNESCO)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、国連人口基金(UNFPA)、世界保健機関(WHO)、国連児童基金ユニセフ(UNICEF)が協働してまとめた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」というものがある。

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