10月減税、それでもビールの酒税がまだ「高い」訳 ビールは高級酒?わかりにくい酒税を再考

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しかし、今やビールは庶民も飲める酒になった。それにもかかわらず、ビールの税率は高いまま。これでは、「逆進性への対応策」という説明は筋が通らない。

税法の専門家である青山学院大学の三木義一名誉教授は、「ビールが大衆酒になったのだから、酒税の基本的思想からすれば減税されるべき。しかし財務省は、消費量の多いビールからの税収確保を優先してきた」と話す。

酒税の仕組み自体にも再考の余地がある

イギリスやフランスなどでは、酒税がアルコール度数と製造量に応じて課されている。その結果、主要諸国では比較的アルコール度数の低い醸造酒よりも、度数の高い蒸留酒に課される税率のほうが高い。

現在の日本の酒税は複雑で、ビール会社や消費者が何に対してお金を払っているかがわかりにくい仕組みになっている。他方で、度数に応じた課税は、健康促進施策としても一定の合理性がある。消費者としても、「健康に良いものには軽い税、悪いものには重い税を払う」という仕組みであれば納得しやすい。

その他、「安かろう悪かろうの酒づくりを防ぐため、良質な原料を使用している日本酒や洋酒は減税、そうでないものは増税してはどうか」(三木名誉教授)という案もある。

財務省の担当者によれば、発泡酒や新ジャンルは「海外では認められないような酒」。そのためビール類間の税率格差をなくす一連の酒税改正は、「より魅力的な商品をつくっていってほしいというメッセージの意味合いも含んでいる」(財務省担当者)という。

しかしながら、目的がはっきりせず、高い税率のままの制度だからこそ、メーカーは原料費の安い「ビールのような酒」を開発せざるを得ないとも言える。酒は日本において重要な食文化の一つだ。酒税の仕組みづくりにおいては、消費者にとって魅力的な商品開発を阻害しない制度設計が求められる。

田口 遥 東洋経済 記者

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たぐち はるか / Haruka Taguchi

飲料・食品業界を担当。岩手県花巻市出身。上智大学外国語学部フランス語学科卒業、京都大学大学院教育学研究科修了。教育格差や社会保障に関心。映画とお酒が好き。

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