仲間同士で「けなし合う」若者たちの心理 いじめでも悪口でもない?

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最後に、若者の間でけなし愛が広まっている背景について考えてみたい。ひとつ目として、LINEの普及がある。スマートフォンの普及に伴い、LINEがここ3~4年で若者の定番の連絡手段となった。私が中学生だった5年ほど前は、長文をメールでやり取りしていたが、LINEでは短文で何通も手軽にメッセージを送れる。実際に会話している感覚でやり取りできることから、けなし愛の会話が昔よりやりやすくなったのではないのだろうか。

2つ目として、多様な友人との関係にうまく対応する必要が出てきていることだ。今、多くの若者はSNSの利用などによって友人の数が増えている。若者の友人関係はしばしば表面的だと言われるが、連絡を取り合う頻度も増えるなど関係が密になっている面もある。SNSが普及したこの時代に生まれた若者だからこそ、SNS上の多様な人間関係に上手く対応しなければならないという面があるのだ。

今回「けなし愛」についてレポートしてくれた、桃山学院大学3回生の西田希帆さん

3つ目として、周りの目を気にする若者が多くなったという点をあげたい。上述したような友人の数の増加や関係の濃密化に伴って、若者にとって友人関係の重要性は以前よりも増している。周囲に友達がいない人、「ぼっち」だなどと思われたくないという意識が強まっているのだ(少し前に話題になったトイレでお昼ご飯を食べる「便所飯」なども同じような意識が影響していると思われる)。

そこで、けなし合うことができるほど仲のいい人が私にはいるということをアピールするために、多くの若者がけなし愛をし始めたのではないのだろうか。けなし愛のようなコミュニケーションのとり方は、以前からあったかもしれないが、現代の若者にとっては、その重要性はより増しているのだ。

今回のインタビューから、若者がけなし愛を楽しみ、会話を盛り上げるため、またはどのくらい仲がよいかを確かめあったり、仲が良いことをアピールしたりするための手段としてそれを使っていることが分かった。当初、関西と関東でけなし愛の流行に何か違いがあるのではないかと思ったのだが、大きな違いは見られなかった。関西でも関東でも若者の大事なコミュニケーションのひとつとして広がっており、けなし愛ができるかどうかということが友人関係において重要になっているようだ。

原田の総評:「けなし愛=無礼」ではない

さとり世代による、けなし愛についてのレポートはいかがでしたでしょうか?

ソーシャルメディアの普及は、今の若者たちの人間関係の数を飛躍的に増やしました。出会うとすぐに互いの連絡先を交換し、その関係は保存され、過去との人間関係も途切れにくくなっています。

こうして広がった人間関係なので、深さを持つ「親友」といったものよりも、浅い「知り合い」の数が増えています。

こうした広く浅い人間関係の中、今の若者たちは、「けなし愛」という手法を用いることによって、「俺たち、私たちは親友だよね」と互いの絆の深さを確認し合い、周りにもその絆の深さを示す必要が出てきているのかもしれません。

読者の皆さんも、この若者の独特のコミュニケーション手法やそれが生まれる背景を知っていただけると、ある日急に若者から無礼なことを言われても、すぐには怒らず、それがむしろ親愛の情を示す「けなし愛」である可能性に気付くことができるかもしれません。もちろん社会的な礼儀は優しく教えてあげる必要はあると思いますが、この若者ならではの傾向を知っているのといないのとでは、若者とのやり取りが違ってくるはずです。

原田 曜平 マーケティングアナリスト

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はらだ ようへい / Yohei Harada

1977年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『寡欲都市tokyo』などがある。YouTubeはこちら

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