「部下からのハラスメント」から身を守る方法 管理職をケアしてくれる場所はどこにあるのか

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部下にも権利はありますが、大前提として、その権利を得るための責任を果たさなければなりません。職務を全うしないといったことを含め、責務を棚に上げて権利ばかりを主張するのは、仕事をしていることへの自覚のなさを露呈しているも同然です。

自分に課せられている業務遂行に誠意を持って取り組まず、責務を負わないで権利ばかりを主張することは、上司に対する「ハラスメント」ともいえるのです。

他人に迷惑をかけなければよいのか?

こんなケースもあります。部下本人の残業の申告が遅れ、当月中に処理できなかった案件が続いていることを注意した例です。

上司「残業代請求を期日までに必ずするようにして」
部下「月末は忙しいので、つい後回しになってしまって。翌月に残業代が反映されずに困るのは、私なんですから、誰にも迷惑掛けていないですよね?」

このように、忠告したことに対し「何が悪いんですか?」と開き直る態度も見られます。

この場合、会社としては、きちんと残業の管理ができていないことを指摘される原因にもなり、残業代未払いとなれば、大きな問題に発展してしまう可能性も否定できません。決して個人の問題にとどまらないのです。

極端な場合は、挨拶するように促したら「就業規則に書いてありますか」と切り返されたというケースもあるほどです。

もう、こうなってくるとお手上げ状態です。

モラルハラスメントが横行

モラルハラスメントとは、言葉や態度によって、巧妙に人の心を傷つける精神的な暴力のことを指します。無視などの態度や人格を傷つけるような言葉なども含まれ、精神的な嫌がらせ・迷惑行為を含みます。よって、必ずしも組織内の力関係に左右されることはなく、部下から上司に対しても行われる可能性があるわけです。気に食わない上司に対して、部下が結束して嫌がらせをする場合もあります。

特段の理由もないのに、「依頼していた書類を期限までに提出しない」「重要なプレゼンの直前に遅刻や休みの連絡が入る」など責務を放棄することもこれに抵触します。

そのことについて、強く指摘したからと言って「ハラスメント」になることはありません。誰が聞いても明らかにひどいと認識する暴言や人格否定は避けなければなりませんが、指導や指示とハラスメントは、別物です。組織は、ルールにのっとった指示命令系統で動いています。

何でもかんでも「ハラスメント」だと認識する側の知識不足もみられますので、共通理解を得るための教育も必須ですし、責務を果たさず「ハラスメント」を逆手にとって好き放題している社員には、毅然とした対応が求められます。

そのときに、「やる気あるのか」などの精神論だと、抽象的すぎて相手にも伝わらず、それこそ「ハラスメント」と言われかねないので、「業務の範囲は○○です。△△までに仕上げてください」とはっきり伝え、やらなくていい理由を議論するのではなく「どうしたらできるか」に焦点を当てて、対応しましょう。業務遂行することにより、権利を主張できることを伝えることも大切です。

必要以上の配慮で、管理者が追い詰められることのないよう願っています。

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大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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