グローバル時代の成功のカギはダイバーシティ~「アジア内需」のチャンスを生かす《4》アメリカよりも豊かな多様性を深く理解することがアジア進出の第一歩
ダイバーシティ(多様性)のコンセプトと施策の発祥の地であるアメリカは移民の国として知られている。人々は実に多様性豊かだ。しかし、アジアの多様性はそのアメリカよりはるかに複雑である。
たとえば、中国は人口のほとんどが漢族だが、モンゴル族、チベット族など数十の少数民族も含め、ひとつの国家を形成している。インドネシアには数百の民族が1万数千の島に住み、おのおのの島により文化や宗教が異なる。3つの主要民族が共存するシンガポールとマレーシアでは、民族ごとに宗教や文化も違ってくる。また、国内で話す言葉が1言語以上の国も多い。多言語社会のインドでは100以上の言葉が使われ、方言はその何倍もある。フィリピン、シンガポールやインドなどは国内の多民族・多言語に適切に対応するため、複数の言語を国の公用語と規定している。
日本は無宗教者が多いが、海外では宗教が国民にとって非常に重要な存在である。服装や食事などの生活習慣にも影響を与える。イスラム教というと、中東を思い浮かべがちだが、人口2億3000万人のインドネシアは世界最大のイスラム教国家。マレーシアの国教もイスラム教だ。また、インドでは大多数がヒンドゥー教だが、イスラム教徒数では世界でインドネシアとパキスタンに次ぐ第3位となる。
韓国では仏教よりもクリスチャン人口の割合が高く、アジアでフィリピンの次に多いキリスト教徒が存在することはあまり知られていないだろう。異なる民族や宗教は緊張感や政治的な摩擦をもたらすことも多く、しばしば民族や宗教の勢力争いによる対立が起こる。新興国でのビジネス展開には、政情不安や地域紛争が不安材料になることを念頭に置くべきだろう。
また、国内であっても地域ごとに社会経済の多様性が高い場合があるため、各国だけでなく、地域の多様性にも目を向けることが重要だ。このように一国の中でも、多様な民族、宗教や言語が共存する場合が多々あるだけでなく、これらに加え、個々人の背景、性格や能力なども異なることが、アジアの多様性を複雑にさせている要因だ。そして、そのようなアジアは欧米先進国一辺倒とは違う視点から物事をとらえることが重要なことも教えてくれる。