日本人がほぼ知らない「もう1つのシンガポール」 政府によるデジタルツイン政策とは何か

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デジタルツインにはさまざまなデータを連動させることも可能だ。たとえば、高齢者の自宅にセンサーを設置し健康状態をリアルタイムにモニタリングすることで、大病を発症する前に診療を受けられる可能性を高めることができるだろう。また、高齢者からの連絡がなくても、家族が異変を察知して駆けつけることも可能になる。

ただ、「高齢者をモニタリングして、異変を察知する」だけだと、これはオペレーション改善にすぎない。しかし、その結果として数万世帯から集めたデータを基に新たな製品やサービスを開発することにつなげれば、それはストラテジーやイノベーションへと昇華する。

東南アジアでスタートアップが林立する理由

たとえば、シンガポールのオマージュ(Homage)というスタートアップは、スマホやスマートウォッチ、監視カメラやドアに設置したセンサーなどでデータを収集して高齢者の在宅医療を支援している。認知症患者の事例でいうと、何らかの異常が察知されたら、医師や看護師が遠隔で診療をしたり、近隣の医師や看護師などがすぐに駆けつけたりすることができる。これは、新たな付加価値をユーザーに提供しているストラテジーといえる。

さらに、ここで得たデータを基に、高齢者向けの介護施設を新たに設計したり、高齢者が住みやすい街づくりをしたりすることも可能になるだろう。遠隔医療を提供する医師は、フィリピンやマレーシアから診療することも可能になるだろう。このような社会変革へと昇華することができれば、イノベーションと呼ぶことができる。

重要なのは、このデジタルツインは政府だけでなく、誰もが利用可能であるということだ。それにより、資本力がなくても誰もがイノベーションを起こすことができるようになった。

東南アジアでさまざまなスタートアップが立ち上がっているのは、まさにデジタル技術がイノベーションを促進させているからに他ならない。デジタル技術によって事業を展開するための基礎的なインフラが、すでに整備されているからである。

たとえば、かつては一定数の車両を保有しないと、タクシー会社を経営することはできなかったが、デジタルのインフラが整ったことで、配車アプリ1つあれば、個人が所有する車両を利用する形でタクシー会社と同様のサービスを提供することができる。2010年に創業したゴジェックがバイクタクシー事業を成功させることができたのも、まさにインフラがあったからである。

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