マツダ「MX-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきBEV時代のマルチソリューション

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8Cであえて排気量を上げて1ローターとした理由は、レイアウト面が最も大きい。MX-30としてMHEVやBEVと同じ車体に搭載するため、車体前部にモーター、ジェネレーター、そして8Cを横に並べる必要があった。そのうえで、発電機としての十分な出力を得るために排気量を上げたのだ。

こうした仕様を実現するため、技術的なハードルが多々あったという。第1は、「高精度につくる」こと。ローター自体の製造と加工における精度、また燃焼圧力が上がることでのローターとローターハウジングとの間のシール精度が課題となった。

これら課題の解決方法としては、鋳造で使う中子(なかこ)を3Dスキャンなどで対応したり、加工ラインでの工程を汎用性のある高速1軸のNC(数値制御方式)旋盤によって加工工程を6分の1以下に削減したりした。

中子の製造過程(筆者撮影)
サイドハウジングのセラミック溶射の工程(筆者撮影)

第2は「軽く・強くつくる」ことだ。ローターは、ハウジングを前後から挟むサイドハウジングをアルミ化した。13B RENESISとの比較では、フロントサイドハウジングが12.3kgから5.2kgへ、またリアサイドハウジングが12.1kgから5.2kgへとそれぞれ半分以下となっている。

さらに、サイドハウジングの表面に高速フレーム法による「セラミック溶射」という技術を用いて、ローターのサイドシールと接触する面の強度を高めた。

8Cの最終組立ラインも見たが、そこは13B RENESISを製造していたラインに最新技術を付加して改良したものだった。エンジニアの中には「ロータリーエンジンの匠」が現在3人いて、ロータリーエンジンならではの組立の注意点などを若手エンジニアに伝承している。

MAZDA MX-30 Rotary-EVのエンジン組付けの様子(写真:マツダ)
MAZDA MX-30 Rotary-EVのエンジン組み付けの様子(写真:マツダ)

MX-30 Rotary-EV:485万1000円~

今回の2日間の広島取材でロータリーエンジンに深く触れ、改めて「マツダがなぜ、ロータリーにこだわり続けるのか」が肌感覚で理解できた。

なお、MX-30 Rotary-EVは、2023年9月14日から予約販売を開始する。価格は「ナチュラルモノトーン」グレードでは、ジルコンサンドメタリック(2トーン)が税込み485万1000円、ソウルレッドプレミアムメタリック(2トーン)が489万5000円。

広島の海を背景に2台のMX-30 Rotary-EV(筆者撮影)
広島の海を背景にした2台のMX-30 Rotary-EV(筆者撮影)

また、マローンルージュメタリック(2トーン)の限定モデル「エディションR」が、491万7000円で販売される。

近いうちにMX-30 Rotary-EVの走り味についてもレポートしたいと思う。

<MX-30 Rotary-EV>
全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1595mm
ホイールベース:2655mm
車両重量:1780kg
エンジン型式:8C-PH型
エンジン最高出力:53kW/4500rpm
エンジン最大トルク:112Nm/4500rpm
モーター最高出力:125kW/9000rpm
モーター最大トルク:260Nm/0-4481rpm
ハイブリッド燃費(国土交通省審査値):15.4km/L
EVモード換算距離:107km
普通充電:6kWで約1時間50分(SOC 20→80%)
急速充電:40kW以上で約25分
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桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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