戸田建設、CMに「広瀬アリス」起用の深刻な背景 若手社員の「心の叫び」で経営トップが決断

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潮目が変わったのは、2022年の春に開いた広告代理店などを交えた会議だった。

「社長、それは違います」。経営陣や人事部、広報部といった10人以上の人員を前に、採用担当の20代の女性社員が発言した。「うちの会社は知名度があるとおっしゃいますが、社長が考えているほどに認知されていません」。

「学生ゼロ」を体験した、採用担当者の声を集約したかのような「心の叫び」だった。この会議に出席した社員の多くは、「社長は古い」という発言についてはなかったように記憶しているが、大谷社長はそのように受け止めたようだ。

大谷社長はいつものように、静かに構えるだけで、表面的には変化がなかった。だが、この会議の後に経営陣の姿勢が変わっていく。業界団体などの会合において、経営陣がライバルのゼネコン役員に、CMに関する話を「根掘り葉掘り」聞く場面が増えた。社内のプレゼンでも、経営陣は以前よりも熱心に耳を傾けるようになったという。

広瀬アリスさんの起用の方向が決まったのは、2023年4月のことだった。「広瀬さんは快活で明るく、学生層にも若いビジネスパーソンにもリーチできる。(疲労で)一時休養している時期もあったと聞くが、いまは復帰して活躍しておられる。そういった苦労した体験も、(建設業に真摯に向き合う)戸田建設のイメージに合う」。

広報部の佐藤部長がそう言うと、大谷社長は破顔一笑した。「それでいきましょう」。

逆風化での変革への挑戦

新CMの放映が始まったものの、これは戸田建設にとってこの先、本格的に挑まなければならない変革の一端でしかない。

戸田建設に限らず、ゼネコン業界には逆風が吹き付ける。今後は少子高齢化が進展する中で、国内の新築需要は減っていく。環境の変化を捉えて、再生可能エネルギー関連事業など新領域にも踏み込んでいく必要がある。

そのためには、ゼネコン業界の常識にとらわれない、柔軟な発想を持つ人材の登用も求められよう。同社は目下、神奈川県の逗子市や千葉県の印西市にワーケーションスペースを設けている。アバターを使って会議に参加できるシステムも開発中だ。新しいコミュニケーションの形を模索している。

折しも、2024年秋には京橋の新本社ビルが竣工する。働き方改革を進めながら、「石橋を叩いて渡りきる」社風を築くことができるか。老舗ゼネコンの挑戦は、けっしてたやすいものではない。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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