「脱炭素社会」を制する鍵は蓄電池が握っている 熾烈なバッテリー開発の勝者が得る巨大な果実

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平田:水素とかアンモニアは、それぞれ担い手がいそうなので積極的に進めればよいと思います。もし太陽光を本気や進めるのなら、企業の工場、倉庫、事務所の屋根や壁面にも、マンションの屋上や壁面にもソーラーパネルが張り巡らされるように思い切った政策を進めるべきでしょう。

ただ、いずれの分野に進む場合でも、これからのエネルギーで大切なのはバッテリー(蓄電池)なんですね。電気自動車もバッテリー、太陽光にしても日が照っていないときはバッテリーが重要になる。すべての道はバッテリーに通じると言っても過言ではありません。一番に投資すべき、力を入れるべきはバッテリーの開発です。

優れたテスラのバッテリー戦略

藤沢:世界的にエネルギーは分散型になっていくと思いますが、化石でも再生エネルギーでも、エネルギー効率を上げるためにバッテリーはとても重要になっていきますね。

そのなかでテスラが賢いと思ったのは、電気自動車だと言いつつ、バッテリーを世界中に輸出していることです。オーストラリアの太陽光のバッテリーはほぼテスラ製ですし、中国ですらかなりの数のテスラ製のバッテリーを使っている。ですから、「EVを世界に」と言っているのは、実はバッテリー開発と安価なバッテリーを製造・普及するための戦略なのではないかと思っています。

平田:テスラのバッテリーは、バッテリーだけで売っていますね。

藤沢:この本でもEVについても多く言及されていますが、EVが普及することの意味は、脱炭素だけではなくて、世界中のエネルギー効率を上げていくために、良いバッテリーを早く開発するための1つの道具ではないかという気がしますね。

バッテリーの開発にどれだけ投資できるかということを見たときに、中国のBYDなどは昨年、EVを500万台くらい売っていて、今年は1000万台になるのではと言って、アメリカでのバッテリー工場を立ち上げたと。トヨタもEVシフトと言っていますけれども、ここにロシアがガスプロムのような国策会社を立ち上げたような迫力で人やお金を投入しないといけないのかもしれません。

平田:新聞報道を見ると、日本の政府も抜本的に支援を行うみたいですけれども、かつてWTO全盛の頃には、補助金などいけないという風潮だったわけですが、半導体を見てもそれが現在はまったく逆になり、昔のノリに戻りました。

アメリカがバッテリーに多額の補助金を出していて、パナソニックはそれで黒字になったとか。ですから、今後の政策を考えるには昔を知っている人は邪魔になるかもしれないですね。補助金は悪だという頭がありますから。

藤沢:世界の流れは、まず国のお金でエネルギーのデファクトとなる有力企業をつくって、そのあとの「経済性」を求めるところでは、市場メカニズムに任せる。でも、また新しいものをつくるときには、国がお金を投じてと。そして、いま、その切り替え時期なので、国が積極的に投資すべきですが、どこに投資するか、何にお金を使うかをみんなで考えなければならない。その選択が将来を左右することになるでしょう。

平田 竹男 早稲田大学教授/早稲田大学資源戦略研究所所長

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ひらた たけお / Takeo Hirata

早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授。早稲田大学資源戦略研究所所長。1960年大阪生まれ。横浜国立大学経営学部卒業、ハーバード大学J.F.ケネディスクール行政学修士、東京大学工学博士(環境海洋工学専攻)。1982年通商産業省(現経済産業省)入省。在ブラジル日本大使館一等書記官、資源エネルギー庁石油天然ガス課長等を歴任。2002年に日本サッカー協会に転職し、専務理事就任。2007年より早稲田大学に資源エネルギー関連の講義を開設、15年以上にわたって全学部を対象とした講義を行っている。2013年から2021年まで安倍晋三政権及び菅義偉政権において内閣官房参与(資源戦略担当)。

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藤沢 久美 国際社会経済研究所理事長

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ふじさわ くみ

大阪市立大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、95年に日本初の投資信託評価会社を起業。99年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画し、2013年から22年3月まで代表を務める。その間、07年には、ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出、また08年には、世界の課題を議論する「グローバルアジェンダカウンシル」のメンバーにも選出され、世界40カ国以上を訪問。2022年4月、NECグループの独立シンクタンク国際社会経済研究所の理事長に就任。著書に『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)など多数。

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