テクノロジーの発展が経済成長につながらない訳 逝去した「欧州最強の知性」による最後の問い

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このような格差を目の当たりにし、われわれはそのような経済成長のあり方に疑問を抱かざるをえない。経済学者たちの間では、現状の解釈について激しい議論が巻き起こった。見解は大きく分かれている。

現代の産業革命は人間の労働を内包できない

経済は低成長率の時代に入ったと主張する者たちがいる。彼らは、コンピュータ化がどれほど魅力的に思えても、その影響力を20世紀の科学技術革命と比較すると、かなり劣ると述べる。

これはアメリカの経済学者ロバート・ゴードンの見解でもある。ゴードンによると、20世紀にはいくつもの科学技術革命によって社会が大きく変化したという。たとえば、下水道の完備、さまざまな電化製品の登場、エレベーターの配備、観光業の発展などである。

一方、コンピュータ化によって、現代社会はどう変化したのか。ゴードンに言わせると、現在の革命はせいぜいスマートフォンの登場に過ぎないという。したがって、現在の革命によって社会が急速に変化しないのは、決して驚きではない。

しかし、ゴードンと正反対の見解を示す経済学者たちもいる。内生的成長論を唱える彼らは、新たなテクノロジーの熱狂的な信奉者だ。また、レイ・カーツワイルをはじめとする未来学者たちは、「増強された人間」を製造するために、デジタル通信技術と生物学が融合する、トランスヒューマニズムを宣言する。

私は、現代社会の独創性に関するゴードンの見立てはあまりにも悲観的だと思うが、ゴードンの疑問はきわめて重要な意味をもつと考える。すなわち、テクノロジーが急速に発展しているのにもかかわらず、なぜ経済成長率は低迷しているのか、という疑問だ。

私の見解は次のとおりだ。それまでの産業革命は人間の労働を内包できたのに対し、現在の革命はそうではないからだ。

現在の革命により、社会はこれまでにない二極化構造になる。社会の頂点に立つ指導者たちは、スマートフォンを用いてほぼ自分たちだけで組織を動かせるようになった。

一方、価値連鎖の末端に位置する対人サービス業などでは、雇用は創出されるが、生産性が低く、低賃金を強いられる。

中位所得層では、強烈な圧力が生じ、逆に雇用が大量に破壊された。これは人間とコンピュータが競合した結果だ。

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