テクノロジーの発展が経済成長につながらない訳 逝去した「欧州最強の知性」による最後の問い

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この観点に立ち、アメリカの社会的な富がどこにあるのかを考えてみたい。というのは、アメリカはコンピュータ革命の影響を知るうえでの実験場といえるからだ。アメリカの中産階級は過去30年間で衰弱し、社会全体に占める彼らの割合は、10%から15%減少した。そしてアメリカの中位所得は、ほとんど上昇しなかった。

医療、教育、環境は最も重要な財

今後、われわれは悲観主義者として生きるべきなのか。私はそうは思わない。近い将来、人間とテクノロジーの新たな補完関係が登場するだろう。そうなれば、コンピュータに対し、人間は独創力を発揮できるはずだ。

しかしながら、現代社会の逃れられない根源的な問題は、富をこれまでとは別の方法で考察することにある。経済成長率という統計の数値に囚われることよりも、社会が生み出すべき基本的な財について考えをめぐらせることのほうが急務なのだ。すなわち、医療、教育、環境である。それらの財は、統計にはコストとしてしか表れないが、われわれが何としても守るべき最も重要な財なのである。

(訳:林 昌宏)

ダニエル・コーエン パリ高等師範学校経済学部長、『ル・モンド』論説委員

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Daniel Cohen

1953年チュニジア生まれ。フランスを代表する経済学者であり思想家。エリート校であるパリ高等師範学校(エコール・ノルマル・シュぺリウール)の経済学部長。2006年には、経済学者トマ・ピケティらとパリ経済学校(EEP)を設立。元副学長であり、現在も教授を務めている。専門は国家債務であり、経済政策の実務家としても活躍している。また、『ル・モンド』紙の論説委員である。著書は多数あり、アメリカをはじめとして世界十数ヵ国で翻訳出版されている。邦訳書には、『迷走する資本主義』(林昌宏訳、新泉社)、『経済と人類の1万年史から、21 世紀世界を考える』『経済は、人類を幸せにできるのか?』(ともに林昌宏訳、作品社)がある。

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