それはやはり、製作側の意図的なものであると言えます。弁護士によるポッドキャスト番組「Love & Order」から「残念ながら、裁判は真実を暴くものではない。裁判官や陪審員は、提示された情報に基づいて信じるしかないからだ。どんな証人を呼ぶか、どの順番で証拠を出して話を組み立て、何を隠して何を見せるかが大事になるから、裁判は演劇化する」という独断の見解をわざわざ切り取っていることから裏付けることができます。
Netflix世界ランキング1位記録
Netflix公式の視聴数ランキングはまもなく発表されるところですが、即日結果を出しているオンラインコンテンツサービス順位集計サイト「Flix Patrol」によると、8月16日の全世界配信日から1週間の集計でNetflixのTV番組の中で世界ランキング1位を記録していることがわかっています。日本でもこれまで2回、Netflix公式の「今日のTOP10」入りし、海外と比べると反応は薄いものの、海外ドキュメンタリー作品がランキングに入ることは珍しく、ジョニー・デップの知名度の高さを感じます。
もちろん、人気と作品の質は必ずしも比例しません。「デップvsハード」の場合も例外ではありません。デップとハードのどちらのファンでもないかぎり、2人を公平に扱おうと努めていると感じるはずで、その点は監督のエマ・クーパーの手腕によるものでしょう。それがかえって熱狂的なデップファンやミソジニストから反感を買っていますが、作り手の潜在的なバイアスがドキュメンタリー作品に表れることはよくあることです。
それよりも、題材に対するオリジナル取材がほぼなく、解説は当時ネット上であふれた映像を差し込むだけ、作品としての見解が最後に一言あるのみであることが気になります。アメリカでなぜ最も大きなネットニュースとなったのかを検証しきれていません。ユーザー目線を生かしきれず、投げっぱなしなのです。コタツ記事にしてはライブ感あるレポートという印象だけが残ります。
クーパー監督は過去にオーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞でノミネートされた実績があるだけに、製作手法に対して厳しく見られるのは当然です。「デップvsハード」はイギリスの公共テレビ局で今年の春に放送された後、Netflixで世界配信されたものでもあり、本来は評価されるべきドキュメンタリー作品がたどる理想の流通経路であることからも勿体なく思います。
真面目に議論できる要素を持たせているだけで、思わせぶりに終わる衝撃が、話題性に頼って議論を発展させる力が足りない作品であることを証明しています。
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