アメリカでは法廷内での撮影、録音が許されていますから、今回も公式でカメラが入ることがバージニア州フェアファックス裁判所の担当裁判官によって許可され、ライブ配信された合計時間は約200時間に上ったそうです。2022年春の当時、6週間にわたって行われたデップとハードの生々しい争いがお祭り騒ぎのようにネット上にあふれ、それによって社会問題化した話としても興味関心を引き出している作品なのです。
“TikiTok裁判”と揶揄されたほど、切り取られた動画が爆発的に拡散されたことが作品内で伝えられています。それがどれほどのものだったのかを端的に伝えた発言として「イーロン・マスクを抜き1位、ジョー・バイデンの4倍以上、中絶問題の5倍以上、ウクライナ戦争の6倍以上の規模で、全米で最も大きなネットニュースとなった」ということも紹介しています。全体的にこのメディアの影響力についてあおり気味に取り上げているように見えなくもないですが、日本でも芸能人の不倫案件などが話題を独占することがありますから、決して大げさな表現ではないのかもしれません。
名誉棄損訴訟額は約145億円
「デップvsハード」は3部構成で本命テーマである「ネットの狂騒」を取り上げつつ、大半の部分はデップとハードがどう証言したのかと、最終的な判決に至るまでの過程を追っています。実際には裁判でそれぞれ約2週間ずつ証言されましたが、作品では証言内容が同時に紹介された編集によって、2人の証言が大きく食い違っていたことがよりわかるものになっています。
そもそも今回、2018年にハードがアメリカのワシントン・ポスト紙でDV被害者代表として語ったことから、デップは「キャリアを潰された」としてハードに対して損害賠償を請求したものの、ハードが反訴したことから、訴訟事件として扱われたというわけです。それぞれの請求額を日本円に換算すると、デップは約72億円(5000万ドル)、ハードは約145億円(1億ドル)ですから、一般庶民の感覚からすると名誉棄損を巡るこのケタ違いの話は、娯楽映画のように思えてしまいます。
そんな野次馬心理をくみ取ってか、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズをはじめ、2人の出会いのきっかけとなった映画「ラム・ダイアリー」(2011年)のワンシーンまで作品では映し出しています。さらに、泥沼離婚以前に23歳差の2人が恋に落ちたラブロマンスから、デップの薬物依存の要因となった幼少期の話までもが映画の台詞かのように本人たちから裁判で語られたことも扱っています。もれなくデップのかつて恋人だったウィノナ・ライダーとの話にも触れ、ケイト・モスが証人として登場までします。
エンターテインメント化に傾倒した編集スタイルゆえに、オーストラリアや飛行機でのDV案件などの真相に向き合わず、単なる痴話喧嘩のようにも見えてきます。「いったい、どっちがウソをついているのか」と、ミステリー映画のように考察を楽しませることを狙っているようでもあるのです。
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