原発処理水の「海洋放出」強行で、漁業者は窮地に 中国が輸入規制措置を強化、風評被害対策は力不足か

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これらのうち、前者の安全性について、政府は国際原子力機関(IAEA)に評価を要請。今年7月に公表されたIAEAの包括報告書では「国際的な安全基準に合致し、人や環境への影響は無視できるほど小さい」という見解が示された。

一方、「安心」の課題については、風評被害防止対策の実効性が不透明なまま、見切り発車となった。

8月21日に岸田文雄首相と面談した全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長は「処理水の海洋放出に反対であることに、いささかも変わりはない」と発言。会談終了後、記者団の質問に、国と東電による一連の対策により安全性への理解は進みつつあるとしつつも、「(2015年の廣瀬氏の)約束は破られていないが果たされてもいない」との見解を明らかにした。

政府は「一定の理解が得られた」として関係閣僚会議で海洋放出を正式決定したが、不信感を抱く漁業・水産業関係者は少なくない。福島県相馬市の水産加工会社社長は「われわれが何を言っても無駄。国や東電は聞く耳を持っていない」と憤りを隠さない。

処理水放出前にもかかわらず、被害はすでに発生し始めている。

北海道のホタテ養殖(北海道新聞/時事通信)

宮城県女川町大石原浜でホタテ養殖を営む木村義秋さん(71歳)は、漁期が始まって1カ月が過ぎた7月に入り、販売価格の下落などの異変を感じるようになった。

「6月4日からの1キログラム530円が、7月16日には450円へとすとんと落ちた。その後も8月2日には420円、8月20日には400円と値下がりしている。昨年とは逆のパターンだ。7月に1日に1.3トンあった販売量も、8月に入ると800キロ、最近では600キロに減っている」(木村さん)

「このままでは10月末に漁期が終わっても売れ残りが発生し、翌年の種付けも難しくなる。将来もやっていけるか不安だ」と木村さんは頭を抱える。

中国の輸入制限措置が養殖業者に打撃

木村さんの売り先はすべて国内向けだが、「中国が事実上の輸入禁止に踏み切ったことがきっかけのようだ。輸出先を失ったホタテが国内市場に流入している」と木村さんは考えている。

7月7日、中国税関は日本産輸入食品の放射性物質の検査を大幅に厳格化した。日本貿易振興機構(ジェトロ)大連事務所によれば、中国税関は従来の福島県を含む10都県からの輸入禁止措置に加え、そのほかの日本からの輸入食品、特に水産品については、必要書類の確認を厳格に行うとともに、100%検査を実施するとした。

農林水産省の担当者によれば、「鮮魚について従来は1日くらいで通関できていたものが、(放射性物質の厳格な検査を理由として)2週間、4週間も留め置かれる事態が起きている」。その結果、中国への輸出がストップし、レストランやスーパーでは日本産の生鮮食品が姿を消している。

香港政府も7月12日、「食品の安全と公衆衛生を確保する観点から、予防原則に基づき、放出を開始した場合、福島県のみならず、千葉県、茨城県、宮城県、新潟県、東京都など10都県の水産物の輸入を禁止する」と発表した。その理由として香港政府は「汚染水の浄化システムが継続的かつ効果的に稼働できる保証はないとの見解に達した」ことを挙げている。

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