稲盛和夫さんがJAL再生で何よりも重んじたこと 「心」を変え、同じ思いを共有して起きた劇的変化
機長や乗務員が行う機内アナウンスについても、決まった事柄だけをマニュアルどおりにしゃべるのではなく、思いやりの心をもって自分が心に抱いた内容を自分の言葉で話してもらいたい、感謝やおもてなしの気持ちが言葉に表れるような素直で懸命なアナウンスを心がけてもらいたいとお願いしました。
よき心によってなされる行為には、かならずやよき結果がもたらされる。そういう心をもって仕事に従事することは、それぞれの人生という畑に幸せの種をまいてくれるものだ、といったこともお話しした。
単に再生計画がうまくいっただけではない
私の話がどれほど功を奏したのかはわかりませんが、従業員の心はみちがえるほどに変わっていきました。そのことが如実に表れたのが、2011年に起こった東日本大震災のときでした。
水に浸かって陸の孤島と化してしまった空港では、職員が避難していた地元の人々に食料や毛布を提供しました。ある客室乗務員は、機内に長時間閉じ込められたお客様のために炊き立てのご飯でおにぎりをにぎって配ったといいます。
被災地に向かう日本赤十字社の救援スタッフに心あたたまる慰労のアナウンスを行った機長や、そのスタッフの方からお預かりした荷物の中に、ねぎらいと励ましのメモをそっと忍ばせた客室乗務員もいたそうです。
1人で関西のご家族のもとに向かうはずの高齢のご婦人が、乗るはずの飛行機が欠航して困っていたところ、非番だった職員が帯同し、交通機関をやりくりしながら、関西の空港まで送り届けたという話も聞きました。
いずれもマニュアルがあったわけでもなく、だれかの指示があったわけでもない。刻一刻と状況が変わっていく戦場のような現場で、それぞれのスタッフが「いま、お客様のために何をするべきか」を考え、行動してくれた。
日本航空の再生とは、単に再生計画がうまくいっただけではない。こうした従業員一人ひとりの思いが劇的に変わっていった、たしかな「心の改革」だったのです。
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